それゆえに経営者や嬢が「どうしよう?」と半ばパニック状態になっているそうだ。実は筆者は、渡鹿野島を訪れたことがある。今から約10年前のことである。
島に渡ると同時に、客引きと思われるオバチャンから「今夜は決まっているの?」と聞かれ、2時間程度のショートコースもあるが、この島では一晩で4万円が相場であると教えられた。しかも、顔見せ有りだという。
教えられたスナックに行ってみると、5人の女性が立っていて指名を促される。どの女の子も若くて、なかなかの美人なので驚いたが、さらに驚いたのは、そのシステムだ。
いわゆる、アレをする場所であるが、アパートの一室だったのだ。しかも、それ専用というわけでもなく、やたらと生活臭のする…おそらく嬢が普段生活している部屋なのだろう。だからこそ絶妙な生々しさがあり、なんともいえない一夜を過ごした。
翌朝、嬢に朝食を作ってもらい、8時頃に“チェックアウト”させられたが、船の出発までに時間があったので島を散策すると、やたらとアパートがあるのだ。つまり…島民が否定しても、そういうことなのだろう。
事実、周辺を写真に収めようと思い、カメラを手に持って歩いていた時のこと。見知らぬオバちゃんと道ですれ違った瞬間に「感心しないねぇ」とキツく言われたものである。ある書によると、住民の警察・報道関係者に対する警戒心はきわめて強く、入島者に対する情報網が張られているのはもちろん、うかつに写真を撮ることも許されないと書かれていたが、まさにそんな感じであった。
あれから10年。これらのアパートは廃墟同然となっていても取り壊されもせず、放置されているという。そして、時には夜に灯りがともることもあるようだ。それが、まさに風前の灯であることは確かであるが、この島が売春島と呼ばれていた残り火のようにも映る…という表現は美化しすぎだろうか。
(文=子門仁)