ちなみに、墓をあばいて遺体を持ち去るという行為は、いろいろと法律に触れるものである。まず、墓を掘り起こす行為「墳墓発掘」は2年以下の懲役(刑法第189条)、「死体損壊等」つまり遺体や遺骨を破損、損壊、あるいは領得すると3年以下の懲役(刑法第190条)そして、この2つを同時に行うこと、すなわち、墓をあばいて遺体や遺骨を損壊、遺棄、領得した場合には、3カ月以上5年以下の懲役となる(刑法第191条)。
その後、金三郎がどうなったか、処罰その他を受けたかどうかは定かではない。精神疾患のために処罰されなかったのだろうか。
余談だが、明治や大正期の新聞を見ると、墓地から遺体を盗んだという事件がいくつか見つかる。多くは「人間の遺体が難病の薬になる」という迷信によるもので、以前にも拙稿「『梅毒の特効薬は死者の脳ミソ』密売人が逮捕される」にていくつか事例を紹介したが、ほかにも明治22年(1890)に滋賀県で男2人が「皮膚病には人肉風呂が効く」という迷信を信じて、墓地から盗んだ遺体の首を風呂にいれて入浴し、警察の取り調べを受けたという記録が残っている。
いかに「効く」といわれても、生首が浮いた風呂に入るなどとは遠慮したいと思うのだが。
(文=橋本玉泉)