このプログラマーはなぜそんなことをしたのか。アメリカのウェブメディア「THE VERGE」が彼にインタビューした記事によると、当初の目的は“女性のため”だったらしい。
彼の女友達がよく、Tinderでやりとりをしている男性から卑猥(ひわい)なことを言われたと文句を言っているのを聞いて、そういうゲスな輩に同じような言葉を浴びせ返してやればいいんじゃないかと思ったそう。
そこで、Tinderのシステムを覗き込んでみたら、そのあまりの脆弱っぷりに驚いたという。
「Tinderのシステムには、驚くほど簡単にボットを仕込むことができる。Facebookアクセストークン(認証後に発行される文字列)さえあれば、実在する人のようなボットをつくれるんです」(THE VERGEの記事より)
彼がボットを仕込むと、数分もたたないうちに次々とマッチング。最初の12時間で40組以上の“男性カップル”のメールのやりとりを目にすることになったという。
最初は海外の人気女性ユーチューバ―の写真をプロフィール写真に使用していた彼だったが、やがて、より本格的にするために知人女性の写真を使用するように(本人同意のうえ)。
騙された人たちがなるべくリアルで会わないようにするため、メールに記された電話番号の数字をめちゃくちゃな並びにするシステムも仕込んでいたというから、かなり手が込んでいる。
Tinderに対して多大な迷惑をかけた問題のプログラマー。実は、彼にはTinderで出会った彼女がいる。恩恵を受けたアプリなのに、なぜそのユーザーを騙し続けたのだろうか。
「騙された人たちは、相手のおかしな発言を全てスルーして、よく知りもしないうちに会おうとする。自業自得なんです」
THE VERGEの記事でそう語るプログラマー。つまり彼は、男性ユーザーが、写真の容姿がタイプであれば、相手のことをよく知りもせずに口説いたり、会おうとしたりすることに警鐘を鳴らしたかったようだ。
とはいえ、騙された方としては余計なお世話というか、かなりの迷惑だ。騙されたユーザーの多くが怒り、困惑していたようだが、なかにはこれをユーモアと受け取って楽しんだ、器のデカい人たちも。
プログラマーの彼がしたことは許されることじゃないが、会話の中で出てくる男性らしい言葉づかいにも気を留めないとは、たしかに深刻だ。なかには、“どんな家庭を築きたいか”、というところまで話が進んでしまった男性たちもいて、「過保護な父親になるのが怖い」というひと言によって「アレ? なんで“父親”なの?」と気づいた例もあるようだ。
(文=ツジエダサト)