私はこの雰囲気が大好きだ。帰るところもないけれど、東京の片隅で世の中のお祭りムードに取り残されるのもなんだかしゃくである。そんなとき、あたたかく迎えてくれるスナックの女の子たちは、まるで女神のように見える。そう、彼女たちもまた寂しいのだ。客と同様、帰省せず歓楽街で働く彼女たち。年の瀬は、いつもよりも健気に切なげに見える。
しかし、店側もそこは考慮していたりするもので。年内最後の営業日となる日には、女の子にお年玉が出たり、女の子も仕事を忘れて楽しめる忘年会をやったりする店も多い。ゆえに、女の子のテンションもいつもと少し違うのである。ちょっと気を抜いているがゆえに、酔いが進んでいたり普段は口に出さないような本音を語ったり。
ゆえに、お気に入りの女の子の素の顔が見たい男性には、ぜひ営業最終日の来店をおすすめしたい。街の非日常感に飲まれてしまうのか、ホステスと客の年明けカップルができることもままあるとか。
また、年の瀬ギリギリにはそれまでのような来客が見込めない店側も、いつもより丁重に扱ってくれる気がする。営業最終日に顔を出すと、それまでは顔なじみ程度だった店が常連扱いをしてくれるようになるのだ。さらには寂しい客同士が意気投合して飲み仲間ができたりなんていうことも。
そう、世間のにぎわいを横目に歓楽街の片隅に集まる人々、その距離がぐっと近くなるのである。
正月に帰るあてもない、しかし誰かと酒を交わして人情味と年の瀬ムードを堪能したい。
そんなあなたは、スナックのドアを開けてみてほしい。家庭のようにあたたかい笑顔がそこにあるはずだ。
(文=小沢Q一郎)