性器とはすなわち家族。家族とはすなわち欲望
後者は現代の医学なら何らかの方法で可能だが、前者はなかなか難しい。そこで監督が創り上げたのが、性器なくして絶頂に達するある方法である。これは、監督が軍隊時代に経験したことから着想を得ているというが、いったいどのような方法であるかは、見てのお楽しみである。
そうして監督は、性器で得られるもの、また、性器なくして得られるものを通して、性器とは何か、という問いにぶつかる。そしてそれを突き詰めて考えていった結果、ある結論に達したという。
「性器とはすなわち家族であり、家族とはすなわち欲望なのだという結論に至りました。性器と家族と欲望は、メビウスの輪のようにひと繋がりになっている。そんな思いでこの作品をつくりました」
メビウスの輪を完成させたイ・ウヌの熱演
メビウスの輪は、ドイツの数学者A・F・メビウスが19世紀に発見した概念で、帯状の輪の一箇所がねじれただけなのに永遠に繰り返す構造になっている。
今回、まさにその“ねじれ”となっているのが、本作に女優人生をかけたイ・ウヌの存在だ。
当初、妻役は別の女優で、ウヌは浮気相手の愛人役だった。しかし、妻役の女優がある事情により降板し、映画は危機的な状況に追い込まれる中、監督はウヌが「エネルギーが溢れた女優だから一人二役も可能」と判断し、彼女に愛人役に加えて妻の役も依頼したのだという。
偶然の中で生まれたキャスティングだが、これがこの映画をメビウスたらしめている要と言っても過言ではない。
また、このウヌの凄いところが、キャスティングの情報なしに観た客の多くに、彼女が演じた二役が別人によって演じられていると思わせたことだ。セリフがないにもかかわらず、だ。
また、同監督による『悪い男』(2001年)で強烈な悪人を演じたチョ・ジェヒョンが、今回は打って変わって、罪に苛まれ息子に尽くす夫を鬼気迫る演技で魅せているのも見どころ。その迫力に負けじと、韓国映画界の新星ソ・ヨンジュも、絶望と欲望を内に秘めた息子を15歳とは思えぬ表現力で見事に演じている。
監督が世に放った永遠の宿題
さて、同作が生み出されたことで、監督自身の疑問「人は性器を切り落とすことで欲望から解放されるか」は解決したのだろうか。イベントの最後の方で観客が尋ねると、彼は次のように答えた。
「結局、解決できませんでした。これからも大きな宿題ですね。私だけでなく、皆さんも死ぬまで抱える解決できない宿題だと思います。でもそういった葛藤や悩みがあるからこそ、人間なのだと思います」
メビウスの輪のように永遠に続く宿題、あなたは同作を観て解くことができるだろうか。
(文=ツジエダサト)
映画『メビウス』、12月6日(土)より新宿シネマカリテほか全国公開
(配給:武蔵野エンタテインメント)
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