真っ白なものは裏返すと真っ黒なんだよ。秋葉凪人『パンダかめんの最期』

eroai20_main.jpgあの秋葉凪人氏が、さらにハードなマゾヒズムと、悦楽と引換の地獄を手にして帰ってきた! 真っ白で真っ黒なエロスをあなたに。

秋葉凪人『パンダかめんの最期』

 秋葉凪人氏の名前を聞いて「おお!」と叫んだ人は、昔からのエロマンガ通。「えっ?」ってなった人は、最近読み始めた人でしょう。

 そうなんですよ、この『パンダかめんの最期』はなんと13年ぶりに出た作者の新刊なのです。秋葉凪人(元・秋葉凪樹)氏は、1990年代に稀代のストーリーテラーエロ漫画家として名を馳せた人物なんです。


 ここで過去の栄光を持ち出すと、読むときハードルあがりそうですよね。しかしご安心ください。過去作品も素晴らしいですが、今作もそのストーリーテリングの技術は全く衰えていないどころか、グレードアップしていますから。

 秋葉凪人氏の作品を読む前に留意してほしいのは3点。「マゾヒスティックの美学」「極限のフェティシズム」「ハッピーに見えてダーク」です。

 まず一つ目のドMっぷりは、表題作「パンダかめんの最期」で見ることが出来ます。この作品セックス描写はないですし、女の子が裸になることすらありません。となりの少女たちの下着を盗んでいる犯罪者の青年(?)が、顔を出すこともしゃべることも許されず、少女たちにボロボロにされていくのです。まさに「最期」を迎える準備万端。その最期すら描かれない。あるのは少女の蔑みの目だけ。

 フェティシズムに関しても一貫しています。特に匂いフェチの人にはたまらないエロスを放っています。匂いって一番絵にならない難しい部分。しかし秋葉氏はシチュエーション(何日も履いている)や物語の流れでそのフェティッシュを語ります。ぱんつへのこだわりや、女性に完全に引っ張られるシチュエーションのフェチズムも、一枚絵ではなく物語の流れの中で描写することで増幅されるんです。

 ここまででも十二分に、エロマンガとしての物語作りがいかに濃厚な作家さんか分かっていただけると思うんですが、そこに加えて「ハッピーに見えてダーク」です。いわゆる「分かりやすくてエロい作品」ではなく「あとからじわじわエロさが淀みのようにたまる作品」なんです。

 人間の中の性って、やっぱり幸せなことじゃないですか。エッチやオナニー気持ちいいじゃないですか。そう、幸せのために性はあるんです。

 しかしその幸せの代償がどこかにあるのではないか? というモヤモヤとした心の淀みや不安がすっごく溜まるんです。純粋な愛情であるほどに、それは狂気に近い。

 表紙を見てもそんなの微塵も感じないですよね。だからこそ、敬意をこめて言います、これは白い色をした黒です。何かに不安を感じているんです、真っ黒い白なんです。作者のコメントも面白いので引用します。

「どう考えてもイチャコラしているだけのハナシなんですがども、今のところはこのハナシ、ハッピーエンドではありません。」
「実のところ白のように見えて、裏返すと黒なことが多いと思うんです」

 連作として発表された「妹さまは魔女」と「まよみさんシリーズ」は必見。一見ありがちなラブラブエロシチュエーション物として読んで、エロ満足できるんですが、どうにも後からふつふつと気持ち悪さや居心地の悪さが浮き上がってきます。「妹さまは魔女」の方は物語構造が非常に緻密なんですが、別に深く考えず読んでも十二分に面白い兄・妹ものなんですよ。けれどこの二人の関係がなんなのか、魔法ってなんだったのか、この後二人はどうなるのかを予感させるものが随所に散りばめられていて、一回読んだ後また読みたくなることまちがいなし。エロと不安があることで、人間のカタチが徐々に浮かんでくるこの描き方は本当に一読の価値あり。

 みっともない男たちと、強気だけどガラスみたいに壊れそうな少女たちの物語。やっぱり秋葉凪人氏は、性を用いて緻密に人間を紡ぐ、真っ黒な詩人なのでした。

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