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明治の女性というと、「控えめでおしとやか」というイメージを持っている向きが少なくない。たしかにそういう女性が多かったのだろうが、物事には何でも例外というもの、イレギュラーな事例がつきものである。明治期の新聞をめくってみると、乱闘騒ぎを起こしたり、暴漢を取り押さえたりと、強く荒々しい女性のニュースが結構見つかる。
明治26年3月21日の夜のこと、東京・新橋で芸者をしている西川小かねさんが、銭湯「金春湯」で湯船につかってくつろいでいた。
ところが、そこにやはり芸者衆が3人ほど入ってきて、小かねさんがいるのを知らずにぺちゃくちゃと世間話を始めた。そして、たまたま話題が小かねさんのことになってしまった。
「西川の姉さんのように、お座敷で意地が悪い人はいないよ」
「本当にいけ好かないよね」
などと3人は、言いたい放題にしゃべりまくる。だが、そのすぐ近くでは、その本人がすべて聞いていたから大変である。「ゆでダコりように手足からポッポと湯気を出して」怒りで顔を真っ赤にした小かねさんは、3人の前に進み出て言った。
「アタシのことを悪く言ったのは、どこのどいつだい!」
そう言うが早いか、いきなり近くにあった手桶をつかむと、3人の芸者衆に向けて投げつけ始めた。