そんな田村の発言に対して、上杉は欧米のコメディアンを例に出し、「芸人さんたちがタブーに切り込むことによって報道につながることもある」と指摘。芸人のユーモアがジャーナリズムを牽引することもあると語っていたが、田村は自主規制に縛られている今のバラエティ界では難しいと言い、「BPOっていう団体がいらない」と発言したのだった。
そもそも、BPOは総務省をはじめとする国に対して、「自分たちの番組は自分たちで監視しているから、あまりお役所の人は(文句を)言わないでくださいよ」という目的で設立された機関のはずなのに、それが知らぬ間に表現の幅を狭めてしまっていると語っていた。また、田村はフジテレビについても言及しており、もともとフジは自主規制に対して戦う姿勢を見せていたが、今ではその自主規制に縛られて「調子が悪くなっちゃってる」と分析。かつて『めちゃ2イケてるッ!』(フジテレビ系)の総監督として活躍していた同局の片岡飛鳥氏などは、BPOと激しくやりあっていたことでも知られるが、田村はそういった経緯について触れたのかもしれない。
若いテレビマンの中には志のある人物も多いが、その上司やプロデューサーがゴーサインを出さないので、なかなか具体的な話が進まないと話していた田村。テレビの第一線で活躍するタレントでありながら、テレビ批判を繰り返す彼の姿からは、もどかしさと同時に、もっと面白いことをやりたいと願う情熱が感じられる。視聴率の低迷や若者のテレビ離れで、ここ数年ずっと閉塞感の漂っているテレビ界で活躍しながら、自腹で動画配信をするなどインターネットというステージにも率先して飛び込んでいる田村には、ネットとテレビを結びつける力がある。
今年の春まで、そういった試みの一つとして放送されていた、田村がMCを務める『全力!ネットユーザーつくり場 ~集まれ!ドリームクリエイター~』(テレビ東京系)は残念ながらレギュラー放送を終えてしまったが、ネット上で堂々とBPO不要論を展開する彼には、テレビとネットを融合させた新しい形のメディアや新しい芸人の姿を見せてほしい。その道のりはまだまだ長いだろうが、これまでに何度となくネット上で辛酸を舐め、その怖さを体験し、テレビの裏側も知っている彼なら、きっとできるに違いない。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)