明治22年頃のこと、東京・浅草小島町(現・台東区小島)に、近所でも評判の美女と噂のお菊という19歳の女性がいた。
ところがこのお菊さん、美しい外見とは裏腹に、若い頃から男を手玉に取る悪女だった。何と14歳の時にすでに男と肉体関係を重ね、腕には相手の男の名前を入れ墨にしていたというから、相当な少女である。以来、5年もの間「色と欲との二道掛けて男を欺き金銭を巻き上げ」(新聞記事から)などといったことを繰り返していた。つまり、色仕掛けで男に近づいては男女関係になり、それから騙したり脅したりして金品を貢がせていたのだろう。そうやって被害にあった男は「数を知らず」という状況だった。
そんな魔性の女性だったため、彼女の評判は最悪。近隣の男たちでお菊さんに手を出す者は皆無だし、彼女から「あの~」なんて言葉をかけられようものなら、男はたちまち逃げ出すことも珍しくなかったようだ。
ところが、被害者のなかには彼女に恨みを抱き続け、復讐を企てる男たちもいた。そうした被害男性たち4名は、いずれもお菊からは夫婦になるという約束を交わした文書をもらっていたにもかかわらず、ボロクズのように捨てられていた。
その4人が集まって考えたのは、その結婚の誓約書をたてにして、お菊さんにだまし取られた現金の一部でも取り戻そうということだった。
意気投合した4人は彼女の家に押しかけると、激しい口調で迫った。
「結婚を約束する書面はここにあるぞ、動かぬ証拠が!」
「約束通りに夫婦になるのか、それとも約束を破った慰謝料を払うのか!」