そして、相容れることのないと思われていた二つのドラマが、加奈子という存在を軸につながり、彼女の真の目的が判明したとき、誰もが予想し得ないクライマックスを迎え、その重苦しく救いのないラストが、観る者の中に大きな足跡を残していくのは間違いない。それでいて、これだけ重いストーリーとクズどものアンサンブルが繰り広げられるにもかかわらず、最後まで勢いを失わない演出に爽快感を覚えるのは、常にテーマを吟味し、徹底して作りこむことで上質なエンタテインメントに仕上げる中島監督ならでは。その才覚と演出のブレの無さには感動すら覚えます。
ブレがないといえば、本作で加奈子の友人役を演じた橋本愛も、ある意味ブレなき女優っぷりを本作で発揮している。『告白』『桐島、部活やめるってよ』(12)、あるいは『さよならドビュッシー』(13)と、どの作品も外見上は橋本愛以外の何者でもなく、それでいて作品に必要不可欠な存在感を醸し出す姿は、共演の二階堂ふみがカメレオンのごとくキャラクターを変貌させる姿とは好対象で、今後さらに女優としての存在感を高めていくことを期待させてくれる。すべからく美少女アクトレスはその美少女ぶりをもって、ブレずに映画界を牽引してほしいものです。ということで、この『渇き。』でデビューを果たした小松菜奈も、たとえ本人は優しい子であっても、なついてきた犬を蹴り倒すような悪魔キャラで、日本映画を激震させることを期待したい。それほどまでに強烈なインパクトを残す逸材なのだ、彼女は!
(文=テリー・天野)
◆『渇き。』(http://kawaki.gaga.ne.jp/)
妻の不倫相手への傷害で職場も妻子も失った元刑事の藤島。そんな彼のもとに妻から連絡が入り、娘の加奈子が失踪したことを知らされる。失った家庭を取り戻すべく、加奈子の友人たちに接触して彼女の足跡を辿る藤島であったが、その事で彼の知らなかった娘の、恐るべき裏の顔が徐々に明らかになっていく…。
監督・脚本/中島哲也
原作/深町秋生『果てしなき渇き』(宝島社刊)
脚本/門間宣裕、唯野未歩子
出演/役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、橋本愛、國村隼、黒沢あすか、青木崇高、オダギリジョー、中谷美紀
上映時間/118分
配給/ギャガ
公開/2014年6月27日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他にて全国ロードショー
※R15+