日本映画界において常に最も次回作を期待される監督・中島哲也。CMディレクター時代から意欲的な作品を数多く発表していたが、ゴスロリ姿の深田恭子が関西弁で絶叫し、まるで今のバラエティ番組での活躍を予感したかのように土屋アンナがバリバリのヤンキーキャラで暴れまくる『下妻物語』(04)で、映画界に旋風を巻き起こした。
さらに、中谷美紀が歌い踊りながら一人の女の転落人生を演じた『嫌われ松子の一生』(06)や、病院に集った役所広司らダメな大人たちが、一人の少女を救うために文字通り“一芝居”打つ『パコと魔法の絵本』(08)など、順調にフィルモグラフィを重ねていく。
また10年に公開された『告白』では、少年犯罪やイジメといった社会問題を下敷きに、黒澤明の『羅生門』をも彷彿とさせるような虚々実々の駆け引きが繰り広げられる極太サスペンスを展開。興行的成功はもとより、日本アカデミー賞作品賞ほか数多くの映画賞を獲得するなど、そのめくるめく映像美と小技の利いた演出で、重いテーマの原作でも極上のエンタテインメントに仕上げ、内外で高い評価を得るまでに至った。
そんな中島監督の最新作『渇き。』は、これもまた過去の中島作品の例に違わず、エッジの効いた作品となっている。
本作は、2004年『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した深町秋生のベストセラー小説『果てしなき渇き』(宝島社)を原作としたサスペンスだが、何がスゴイかといえば、出てくる人物が揃いも揃って自己中心的なクズばかり。真っ当な善人がほとんど見つからないというダメ人間パラダイスなのだ。
そもそも主人公の藤島(役所広司)からして、相当の問題人物。嫁(黒沢あすか)の浮気にカッとなって浮気相手を半殺しにし、警察も辞めてしがない警備員暮らしを強いられるという、もはや完全に人生を詰んでいる。そんな彼が逃げた女房の依頼で、行方不明になった娘の加奈子(小松菜奈)の行方を追うのが、映画のストーリーだが、その過程でも藤島はバイオレンス上等、言うことを聞かない奴はボコボコにしてでも組み伏せ、チョイワルどころか性根のグズグズに腐った最悪オヤジぶりを発揮する。