■本当にヤバかった村崎百郎
──先ほども触れましたが、村崎さんにはたくさんの人格があったそうですね。それは具体的にどのようなものだったんでしょうか。
森園:普段は温厚で良い人なんですけど、電波で人格が変わると本当にヤバかったですよ。瞬時に変わるんですよ。一緒にいても分かるんだけど「あ、いま村崎に何かきてる、本人じゃないみたいな」という感じで。電波がきちゃって、誰かに「うるせえ!」と怒鳴ってたりすることはよくありましたね。見えない相手と延々と会話してて、私が必死に身体を揺すると急にハッと我に返って「あ、気にしないでくれ」って。それだけじゃなく、包丁を持って全裸で外に飛び出そうとすることも何度かありましたよ。
──うわあ…(笑)。
森園:止めるのが本当に大変だったんですから(笑)。あと警官に殴りかかろうとしたり。悪霊に取りつかれて人格が変わっちゃうこともありました。
きめら:電車に乗った時に村崎さんが笑いだして、笑いが止まらなくなったこともありますね。車内が凍りついていたんですけど、村崎さんの肩を何度も叩いて呼び掛けて、やっと「え?」って感じで気付いてくれるという…。
森園:でも、そういうことが私の前であったのは付き合ってかなり経ってからですね。最初は苦労して隠していたのかもしれない。私と知り合う前は暴れたりもしていたみたいで、村崎が前に住んでいたアパートに行ったら壁が穴だらけになっていたこともありました。
──それだけ人格の揺れがあると人付き合いが大変そうですね。
森園:仕事では真面目で押し並べて上手くやっていたみたいですよ。だから仕事上でしか関係のなかった人は村崎のそういう面を知らないかもしれません。でも繊細で感受性がすごく強いタイプですから、他人と波長が合う・合わないが露骨にある。合わない人から電話がきても「ガチャ切り」みたいな。私の友達も何人も口すら利いてもらえなかった(笑)。
きめら:三人で出版社のパーティに行った時、森園さんの知り合いの女性漫画家さんが「あ、村崎さ~ん」っ手を振って近付いてきたんですけど、その人の顔も見ずにクルッと別の方を向いて行っちゃったことがありました。それくらい好き嫌いがハッキリしていましたね。
──拒絶するだけでなく、かなり激しい嫌悪を示すようなこともあったんでしょうか。
森園:相手によってはそういうこともありましたね。昔、打ち合わせで出版プロデューサーの高須基仁さんに呼ばれて、村崎と一緒に新宿プリンスホテルで会ったことがあったんですよ。で、高須さんが私にちょっかいというか、いろいろと言ってきて。実は村崎と付き合う前から、高須さんに二人で旅行しようとか誘われていたんですよ。全く誘いに乗る気はないので断ってましたけど。で、村崎が高須さんの態度にイヤなものを感じたと思うんですよ。そしたら打ち合わせの途中で村崎が怒っちゃって。テーブルを「バーン!」ってひっくり返して。怖かったですよ(笑)。
──それは強烈ですね。高須さんと森園さんは過去に「熱愛!」とメディアで報じられたこともありましたし…。
森園:一度も付き合ってませんから! そういうの、村崎は他にもやってますよ。村崎と付き合い始めたころかな。それもプロデューサー的な人だったんですけど、村崎と3人で焼き肉か何か食べに行ったとき、相手がおいしいことを言いながら付いてこようとしたんですよ。その時もテーブルをドーンって。嫌な相手に対しては容赦ないですよ。
──普段の温厚さや女性的な感性と、怖いほどの激しさ。そして電波の受信。全く異なる人格が村崎さんの中に幾つも存在していたんですね。波長という意味でも自分の言葉を理解してくれる相手という意味でも、本当に分かりあえる人は少なかったのかもしれませんね。
森園:そうですね。でも青山正明さん(※)とは本当に仲が良くて、自他共に認める親友だったと思います。三人で飲んだりしたこともありますけど、青山さんもすごくいい人でしたから。青山さんの場合はお酒を飲まないから、彼だけクスリをかじりながらでしたけど(笑)。
きめら:青山さんが亡くなった時、村崎さんがボソッと「青山を殺したのは俺なんだよ」と言ったことを覚えています。多分「救ってやれなかった」という意味だったのかなと思いますけど。それだけ特別な存在だったんでしょうね。
──青山さんも村崎さんと同時期のサブカル界の大スターですからね。その両雄が通じ合っていたというのは分かる気がします。
森園:当然、村崎は根本さんも尊敬していましたね。村崎にとって、根本さんは「この人は分かってくれる」という数少ない存在だったようで、根本さんと話しだすと会話が止まらなかったみたいです。そして京極夏彦さんは昔からの仲なので別格でしたね。
※青山正明:サブカルチャーやアンダーグラウンドに精通した編集者であり著述家。1981年の慶應大学在学中に伝説の変態ミニコミ誌「突然変異」を創刊し、卒業後はロリコン雑誌やスカトロ系雑誌などでコラム執筆や編集を担当。「別冊宝島」(宝島社)などで活躍後、データハウス内に編集プロダクション『東京公司』を設立し、『アダルトグッズ完全使用マニュアル』(データハウス)などを編集。実体験を基にドラッグのノウハウを解説した初の単著『危ない薬』(同)や変態・鬼畜・悪趣味を詰め込んだムックシリーズ「危ない1号」(同)は名著として一部で絶賛され、村崎氏とともに90年代の『鬼畜ブーム』の中心人物となった。後年はドラッグで逮捕されたことをきっかけに精神世界に傾倒し、さらに眼病に思い悩み不安定になったといわれ、01年6月17日に自宅で縊死。享年41。
■村崎百郎は「魔術団体」のメンバーだった
──村崎さんはクロウリーの著作などを愛読するだけでなく、実際に魔術団体に入っていたそうですね。
森園:村崎が所属していたのは魔術の学院「I∴O∴S∴」という、その世界では有名な団体でした。エジプト系の魔術や黄金の夜明け団(※)、クロウリーなどを幅広く研究している日本の魔術団体で、村崎はそこを通じて儀式や修行をしていましたね。自宅で儀式をする時は「部屋に入るな、話しかけるな」ってくらい集中して。だから何をしていたのかはあまり分からないですけど(笑)。
──遺品の儀式用の剣や水晶玉などを拝見しましたけど、さすが本格的でしたね。魔術にはいつごろから傾倒するようになっていたんでしょうか。
森園:学生時代のものだと思うんですけど、魔術修行の日記みたいなものもありましたから、かなり昔からやっていたみたいですよ。
──展示でも重要なテーマになっていますが、魔術は「村崎百郎」を構成する大きな要素だったんでしょうね。
森園:周りには冗談めかしていたようなんですけど、本人としては一番大事にしていたようです。離れた修行者同士でテレパシーをしたり、かなり本気でやっていましたよ。
※黄金の夜明け団:カバラや錬金術、エジプト神話、タロットなどを習合させた魔術系の秘密結社。「ゴールデン・ドーン」などとも訳され、魔術学校の意味合いが大きい団体。1888年にイギリスで発足し、最盛期には100名を超える団員を擁して魔術界の一大勢力となった。その教義や体系化された魔術理論は、現在に至るまで多くの魔術団体に影響を与えている。クロウリーも1898年に入団したが、彼の異端児ぶりが災いして内紛が勃発。クロウリーは2年足らずで脱退し、黄金の夜明け団も1900年代初頭に歴史の表舞台から姿を消した。
■村崎百郎は死なず
──記念展示ができたことをきっかけに、昔のファンが村崎さんに再注目したり、今まで知らなかった人がファンになる可能性もあると思います。
森園:『まぼろし博覧会』にいらっしゃるお客さんは村崎を知らない人もたくさんいると思うんですが、展示には村崎がどんな人だったかは分かるように説明が書いてありますし、著作の『鬼畜のススメ』と『電波系』が読めるようにしてあります。あと、拾った『情念ノート』も閲覧できるようにしてありますので、それで新しく村崎に興味を持ってくれたら嬉しいですね。
──村崎さんが生みだしたものは永遠に残っていきますからね。それで新しいファンが心を動かされるようなことがあれば何よりだと思います。
きめら:村崎さんの文章は、いつの時代にも通じる部分があると思うので読み継がれていってほしいですね。「電波」「鬼畜」というテーマは普遍的だと思うんですよ。文字通りの意味だけでなく、村崎さんが深く描いた意味でも。
──今後、記念展示に続く展開もあるのでしょうか。
森園:8月と9月に展示完成を記念したイベント(※)を都内で開催します。それと、まだ決まっているわけではないですけど、未発表の原稿や小説、単行本になっていない連載などを新たに本にまとめる計画もあります。今はとにかく、たくさんの人に『村崎百郎館』に来てほしいですね。
滅多矢鱈に脱臭され、漂白されていく“正しい社会”に抗うように最期まで「鬼畜」として生きた村崎氏。その“正しさ”によって息苦しさを感じるようになった今の時代にこそ、世の偽善とまやかしを打ち砕く唯一無二の「鬼畜」の言葉が必要なのではないだろうか。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)
※【お知らせ】
『村崎百郎館』の完成を記念したライブイベントが、今年8月21日(木)と9月12日(金)に東京・西麻布のライブハウス『音楽実験室 新世界』で開催予定となっている。
■8月21日出演予定者
・京極夏彦(小説家)
・エミ・エレオノーラ、GRACEの音楽ユニット「巴里天狗」
・ソワレ(シャンソン歌手/新宿ゴールデン街『ソワレ』オーナー)
・西原鶴真(女流・薩摩琵琶奏者/テクノ琵琶奏者)
・玉虫ナヲキ(昆虫系アーティスト/歌手)
・きめら(鬼畜娘) ほか。
■9月12日出演予定者
・根本敬(漫画家/アーティスト)
・都築響一(編集者/写真家)
・マンタム(アーティスト)
・中原昌也(ミュージシャン/作家)
・宮西計三(漫画家/ミュージシャン)
・きめら(鬼畜娘) ほか。
ほかにも村崎氏とゆかりのある豪華ゲストの出演が多数計画されている。開演時間やチケット販売については現在調整中となっており、興味のある方は下記リンクの村崎百郎Twitterや<非公認>WEBなどで情報を随時確認してほしい。
■怪しい秘密基地 まぼろし博覧会
所在地:静岡県伊東市富戸字梅木平1310-1
営業時間:3月~10月 午前9時~午後5時/11月~2月 午前9時30分~午後4時30分
入場料:大人1200円/小中学生600円
・公式ホームページ
http://maboroshi.pandora.nu/
・公式ツイッター
@_fushiginamachi
・ネットCM映像
http://youtu.be/2K__IKFHTBI
■村崎百郎
・村崎百郎<非公認>WEB
http://www.murasaki100.com/
・Twitter
@murasaki100rock
■森園みるく
・公式ホームページ
http://morizono.babymilk.jp/
・Twitter
@noritakamilkmor
・Facebook
https://www.facebook.com/milk.morizono
■きめら
・ブログ
http://kichikumusume.blogspot.jp/
・ツイッター
@cba13114