■役者としての榊英雄監督が気になります
──榊英雄監督のインタビューを見ると、三輪さんを自分たちのテンションに引き込むのが大変だったとおっしゃられています。
三輪:榊監督のテンションは熱血系というか、積極的に自分が動いて演技指導をされるんですよ。今まであまり受けたことのない演出だったかな。
──それはご本人が役者だからっていうのもあるんでしょうね。
三輪:そうかもしれません。私は榊監督と役者としてご一緒したことがなくて、監督として今回が初めてなので、逆に役者の榊さんに興味がありますね。今回、映画にもちょっとだけ出演されていましたが、どうでした?(笑)
──主演の大森さん以上にワケあり感が漂っていて、さすがだと思いました(笑)。
三輪:榊さん、不思議な役者さんです(笑)。
──俳優としても榊さんはすでに活躍されてますよ(笑)。でも監督として、原作をこれだけよくまとめたなと思いました。
三輪:難しいですよね。原作にある宗教色をあまり濃く出してしまうと、そっちに引っ張られてしまうでしょうし。
──宗教ネタに関しては、娯楽映画としてバランスのいい触れ方をされていると思います。
三輪:劇中で京子が信仰のお祈りをするシーンがありますが、あのスタイル(お祈りのやり方)は、共演した田口トモロヲさんのアドリブなんですよ。田口さん、テスト撮影ではいろいろ違う型を披露し、本番で見事に決まってみんなにウケていました。でもその後「あっ、アタシもそれをやらなきゃいけないんだ」って慌てましたけれど(笑)。
■“掃き溜めの聖母”京子について
──京子というキャラクターは聖母的な部分もあれば、女のドロドロとした部分も持ち合わせた多面的なキャラクターですよね。演じていて難しかったと思うんですが、演技で心がけた点は?
三輪:人間って誰でもいろんな面を持っていて、京子みたいに場面によっていろんな性格が出てくることは普通にあると思うんです。でも一つの作品の中でそれをやると、バラバラのキャラクターに写ってしまう。それをどう一貫性を持たせるのか、ずいぶん悩みましたね。
──いかにしてそこをクリアしたんですか?
三輪:そこはもう考え過ぎず、場面場面で向かい合う相手に演技をぶつけました。言葉の裏を考えながらやっていても、それが芝居に出てしまったら台無しになるし、いろいろ考えたんですけど、考えたすえに全部取っ払って、そのままでやりましたね。
──京子が勇介を受け入れたのは、やはり宗教が土台にあったからなんでしょうか? 普通の女性なら、最初にレイプまがいの行為で関係を結ぼうとしたら、嫌悪感しか残りませんよね?
三輪:宗教あっての赦しでしょうね。もっとも京子の場合は、少しでも自分を求めてくれる人に寄って行きたくなる性格なのかな。勇介の行動はひどいけど、内情としては京子のほうが人間っぽいと思います。彼女はただ流されるままに、自分がどこにいるかもわからない状態で、子供ができるまでになってしまったと思うんですね。
──勇介にしても京子にしても、感情移入しづらいように見えて、人間の弱さをさらけ出している、と?
三輪:京子をとりまく世界観は私の身近にないもので、完全に想像で全部やっていたんですが、こういう人間同士の関係も 「普通にありますよ」って、地元の人は言っていましたけど。
──叔母や母親が性行為をしている最中に出くわす場面など、閉鎖的な土地ならではの性に対する明け透けさも描写されてました。
三輪:ああいう状態を“赦し”てしまうのも、京子のキャラクターなんでしょうね。
──赦しとか嫌悪とか全部ひっくるめちゃうと、最後はみんな混ざって、表情って消えるんだなって思いましたよ。
三輪:人って理性とかモラルがあるから世界が明るく見えるのであって、欲望が全面に出ると世界っていうのはグレーになるんだなあって思いますね。
■役者としては風来坊でいたい
──勇介と京子の夫婦生活を見て、ご自身の結婚生活を見直されたりとかは?
三輪:そういうのはあまり引きずらないですね。子どもがいたらと思ったりもしますが、妹たちにいっぱい子どもがいますから(笑)。
──しばらくは仕事に、ということなんですかね。
三輪:どうなんでしょう? 自分でも予想できないです(笑)。
──本作とか昼ドラとか、我々の予想の付かない方向に行くのが、三輪さんの持ち味とも言えそうですが。
三輪:そうですね。役者である自分は、つねに風来坊でいたいんです。
──『捨てがたき人々』の風景に溶け込んだような、それでいて特殊でもある役柄はもちろん、現在放送中の昼ドラのオーバーな感じの演技も含め、なんだか見ていてすごく楽しそうですね。
三輪:昼ドラの愛美はストレートに思いを言葉や行動に出す女性なので、少しオーバーになっているでしょうか。慣れてくると楽しくなっちゃって(笑)。ああいう演技がなかったら、本当にドロドロだけの話になっちゃうんで、オーバーアクションが必要になってくるんですね。
──本作と昼ドラではキャラクターは違いますが、どちらも三輪さんが情念で生きている感じが伝わってきます。結婚されて、家庭に入られたのが何だか不思議なくらいです(笑)。
三輪:結婚生活にチャレンジしたいっていう自分もいて、そこではわたし、いい奥さんなんですよ(笑)。でも役者として作品に入っちゃうと、家庭なんて全然手につかなくなるんで、そんな時はホント向いてないなぁと思いますね。
──でも女優業も結婚生活も両立されていて、そのうえお店まで開いたりしているじゃないですか?
三輪:じっとしてるのが苦手なタイプなので、いろいろなことをしていたいんです。だから女優が好きなんですよ。役を演じるということは、常に新しいものへの挑戦じゃないですか。
──女優として何十人分の人生を演じ、なおかつ三輪さんはその極地みたいな役を演じ続けてらっしゃる。もう未開拓なジャンルなど存在しないのでは?
三輪:ホントですよね。あとは何があるんだろ? 子供番組の進行のお姉さん役とか(笑)。
──あるいは、もうハリウッドに進出するとか?
三輪:いよいよ英語を勉強しなくちゃいけないときが来ますか(笑)。でもひとつのところに収まってるのは苦手なので、必要とされるならば是非やりたいですね。
──お店を開業されたように、女優業以外にもどんどん手を広げていくとか?
三輪:でも女優の仕事があったら、やはりそっちに行っちゃいます。わたしの真ん中に女優というのがあって、その横に広がる羽みたいなものとして、何かがあればいいと思うんですけどね。
──最後に、映画を楽しみにしているファンの皆さんへ一言。
三輪:一言でっていうのは苦手なんですけど、とにかく『捨てがたき人々』を観てほしいです。そして感想を届けてください。観てくださった方々の評価は、頑張って演技した自分に対してのご褒美ですから。Twitterとかでつぶやいてくださってもいいですし、私のサイトに送ってもらうのも歓迎です。
──三輪さんのお店に行って、直接ご本人に言うのは?
三輪:それも嬉しいですけど、考えちゃいますねぇ。厳しい評価とか、目の前で語られるとツラくなっちゃうかも(一同笑)。
(文=テリー天野/写真=辰巳ちえ)
■三輪ひとみ(みわ・ひとみ)
1978年横浜生まれ。96年に芸能界デビュー以降、ビデオ版『呪怨』(00年)や『ひぐらしのなく頃に』(08)といったホラー、カルト系作品 の他、ウルトラ、ライダー、戦隊シリーズなど特撮作品にも数多く出演。今年は昼ドラ『聖母・聖美物語』に出演するなど幅広く活躍中。
◆オフィシャルブログ「三輪ひとみの徒然草」(http://ameblo.jp/miwa-hitomi/)
■『捨てがたき人々』(http://sutegatakihitobito.com/)
金も仕事もなく、不細工で怠け者の男・狸穴勇介が故郷の街に帰ってきた。怪しげな風貌な彼を街の人々が訝しげな目で見る中、顔に痣のある女・岡 辺京子だけは彼に対して笑顔で接するが、そんな彼女に対して勇介は、半ば強姦のような形で関係を持ち、なし崩しに同棲を始めるのだが……。
監督/榊英雄
原作/ジョージ秋山(幻冬舎刊)
脚本/秋山命
出演/大森南朋、三輪ひとみ、内田慈、滝藤賢一、佐藤蛾次郎、諏訪太郎、寺島進、荒戸源次郎、伊藤洋三郎、美保純、田口トモロヲほか
上映時間/123分
配給/アークエンタテインメント
公開/2014年6月7日(土)テアトル新宿他全国順次ロードショー
※R18+
【初日舞台挨拶情報】
■日程:6月7日(土) 10:30の回上映後
■場所:テアトル新宿
■登壇予定:大森南朋、三輪ひとみ、榊英雄監督
※詳細につきましては、劇場までお問い合わせ願います。
※登壇者は予告なく変更になることがありますが、ご了承下さい。
テアトル新宿 TEL:03-3352-1846
URL: http://www.ttcg.jp/theatre_shinjuku/
その他、さまざまな情報は公式ツイッター(“@sutegatakihito”)にて!