確かに、ネットを通じて接触した素性のよく分からない人物に子どもを預ける行為は褒められたものではない。通常ならシッター企業と契約し、選別や教育を受けたベビーシッターを派遣してもらうのが安全だ。だが、そんなことは誰にでも分かる理屈であり、それでも仲介サイトを使わなければならなかった事情が存在するはずである。
シッター企業の場合、東京都の相場料金は1時間1,600円~2,300円ほど。だが、企業などに属さないフリーの個人シッターであれば、1時間1,000円前後で済む。多くの個人シッターは前述のような仲介サイトに登録しており、利用者は条件に合ったシッターを手軽に素早く見つけることができるが、サイト側は登録シッターを審査しておらず玉石混同の状態だ。
「利用者にとっては、サイトに登録された保育経験の年数や保育資格の有無などといった情報がシッター選びの頼りになる。しかし、ウソの情報を登録しているシッターも少なくない。また、保育資格のあるシッターが利用者と契約を結んでも、実際に子どもを預かるのは資格のない別のシッターという“飛ばし”もあるといいます。優良な個人シッターも数多くいますが、ネット上の情報だけで面識のないまま契約を結ぶため、悪質シッターを見分けることは不可能に近い」(業界関係者)
どんな人物なのかは利用してみるまで分からず、問題があっても利用者からのクレームがあって初めて利用停止などの処分が下されるだけ。物袋容疑者も利用停止処分を受けていたが、ハンドルネームやアドレスなどを変えれば別人を装って再登録できたため、効果はあまりなかったようである。
本来ならシッター企業に頼んだ方がいいが、死亡した男児の母親はシングルマザーで二人の子どもを抱え、決して裕福な経済状況ではなかった。企業に頼みたくても頼めない事情があった可能性は十分にあるだろう。
安価で信頼できるサービスとしては、国のシッター仲介事業ともいえる「ファミリー・サポート・センター」や自治体運営の泊まり保育「ショートステイ」とった制度がある。だが「実施施設の数が限られている」「長時間預けられない」などといった問題があり、使い勝手はよくない。サービス自体の周知も進んでおらず、制度の存在を知らないという親も多い。
であれば、安価で泊まりの保育に対応してくれる個人シッターに頼ってしまうのも致し方ない部分があり、息子を失った母親をテレビ番組という公共の場で感情的に責め立てる言動は疑問を感じるところだ。経済的に恵まれた「テレビの中の人たち」が、このような問題を語ること自体がナンセンスなのかもしれない。
いずれにせよ、今回の問題は「母親が悪い」「シッター仲介サイトが悪い」という単純な結論で解決するものではないだろう。シングルマザーや困窮した家庭でも、無理せず安全な子育てができるような環境の整備が求められる。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)