「喋りが流暢すぎる」という疑問に関しては、成長してから聴力が衰えた障害者は健常者と変わらないほどの発音で話せる人も多く、これが即座に「障害詐称」につながるわけではない。しかし、会話が聞き取れないのに手話通訳が終わる前に返答したり、記者の言葉をリアルタイムで理解しているとなれば、おかしな話になる。
この点について、佐村河内氏の“焦り”が見えたように感じられた場面もあった。
取材陣の中には、問題のきっかけになった「週刊文春」(文藝春秋)の告発記事を執筆したノンフィクション作家・神山典士氏もいた。“天敵”といえる神山氏が、佐村河内氏に利用されたという義手のバイオリニスト少女「みっくん」への謝罪の言葉を求めると、佐村河内氏は「何について謝れと…」と言いかけた。すかさず神山氏は「まだ手話通訳が終わってませんよ」とツッコミ。佐村河内氏は「…はぁ!?」と思わず感情的に返答し、会見場が失笑に包まれた。
佐村河内氏が「僕は今、おっしゃったことに対して答えているだけです」と納得できるようなできないような釈明をすると、神山氏は「目と目を見てやりましょう。僕と『口話』をしてください」と挑発。佐村河内氏は「ふざけたことはやめてもらえます? こうして科学的な検査が出てるじゃないですか」と激怒し、一度は質問を終了しようとした。
また、視聴者の声を代弁する形で別の記者が「手話を実演してほしい」と要望し、佐村河内氏は立ちあがって手話を披露した。それが終わると記者は「ありがとうございます。隣に手話が分かる人間がいますので…」と言ったが、この言葉にかぶさるほどの速度で佐村河内氏が「えっ!?」と反応。かなり焦った様子だったため、何かの“引っかけ”と思ったのかもしれないが、もしそうだとすれば手話通訳が終わる前に反応してしまったのは致命的だ。
だが、約2時間の会見で佐村河内氏のペースが乱れたのはそれくらい。200人ほどの取材陣から質問攻めにあったが、突かれて痛い部分への矛先をそらしながら自分の言いたいことはしっかりと主張しており、会見を見事にコントロールしていたといえるだろう。
佐村河内氏は「私のテレビ出演は本日をもって最後」と宣言しており、マスメディアからの追及に関しては“逃げ切り”。楽譜を販売する予定だった音楽出版社などが損害賠償請求の構えを見せているが、それをかわせばひとまずは安泰といえそうだ。あとは前述のように、名誉毀損による新垣氏への訴訟準備に入るものとみられる。近いうちに「言った、言わない」の水掛け論ならぬ「聞こえた、聞こえない」の泥沼裁判が繰り広げられることになりそうだ。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)