訴訟連発のJASRAC、法廷闘争のミュージシャンに支援続々


 この契約スタイルに疑問の声を上げてJASRACと今も闘っているのが、かつてロックバンド・爆風スランプで活躍し、現在はLOUDNESSの二井原実や筋肉少女帯の橘高文彦らが参加するバンド「X.Y.Z.→A」などで活動するドラマーのファンキー末吉だ。09年、ファンキー氏が経営に携わっている「Live Bar X.Y.Z.→A」にJASRACが著作権料を請求し、その書類の内容に彼は「これではヤクザのみかじめと同じである。ちゃんと著作権者に分配しろよ!!」と憤った。書類には「どの曲を使ったか」と記載する項目はなく「何平米の店舗で月に何時間演奏しているお店は月々いくら払いなさい」という表とその申告書があるだけだったというのだ。

 JASRACは、包括的利用許諾契約として特定のモニター店でサンプリングしたデータを元に、使用料を著作権者に還元していると主張している。だが、その具体的な内容は非公表。ファンキー氏は同店でBGMとして「X.Y.Z.→A」の楽曲を流し、ここ10年ほどで「X.Y.Z.→Aは300本ぐらいライブをしている」というが、それに関して著作権者として分配金を貰った記憶はないという。

 ファンキー氏は使用料の支払いを完全に拒絶しているわけではなく、JASRACに無暗にケンカを売っているわけでもない。だが、この不可解な徴収方法と分配の不透明さに不信感がぬぐえなかったファンキー氏は、支払う前にその“ブラックボックス”を明確化してほしいとJASRAC側と交渉した。だがJASRAC側は応じず、一昨年に申し立てられた調停も不成立。昨年11月には、JASRACが「著作権侵害差止等請求事件」として演奏の差し止めや損害賠償を求める訴訟を起こし、ついに法廷闘争に突入した。

 この訴訟は個人のファンキー氏にとって非常に負担が重く、少なくとも一人あたり100万円といわれる弁護士費用や時間の捻出など、想像を絶する労力と金銭が必要になる。もし負ければ賠償金など600万円以上を支払うことになり、店も営業できなくなるだろう。勝ったとしても地裁判決後にJASRAC側が控訴するのは確実。高裁、最高裁と進んでいけば弁護士費用などは更にかさむことになる。

 ファンキー氏は「勝っても負けても私には1千万近い借金が残るだけの戦い」と語っているが、彼一人にJASRACとの闘いを背負わせるわけにはいかないとして、昨年12月に有志による裁判費用支援募金サイト「ファンキー末吉支援者の会」(http://www.simplepile.jp/)が開設された。関心の高さのあらわれか、今年2月10日現在で420万円以上の支援金が集まっている。

 前述したように、JASRACの「包括契約」は現実に即した徴収方法であるといえるだろう。著作権を守ることが重要なのも当然だ。だが、その算出方法や分配の不透明さが問題視されているのも事実であり、JASRACの強硬な手段が音楽の間口を狭めることにもつながっている。音楽業界の市場規模が年々縮小している中、作り手や聴き手のために何ができるのか、JASRACには今一度考えてほしいものだ。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops

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