15日にスタートした連続ドラマ『明日、ママがいない』(日本テレビ系)が、親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「赤ちゃんポスト」を設置する熊本市の慈恵病院から「差別に満ちた内容だ」と放送中止を要請される事態が起きている。全国児童養護施設協議会も「内容が今の児童養護施設の現状とかけ離れている」とし、ドラマ内で描かれた「平手打ちやバケツを持たせて立たせる行為」は施設内虐待に当たると指摘。そういった行為が描かれることで「いくらフィクションでも子どもや親、職員の人権を侵害している」として、週明けにも抗議文を提出する予定だ。
同ドラマは、さまざまな事情で親と暮らせなくなった子どもたちが集まる児童養護施設が舞台に、芦田愛菜(9)が「ポスト」というあだ名で呼ばれる主人公の少女を演じる異色作。脚本監修はドラマ『家なき子』(日本テレビ系)などで90年代に一世を風靡した野島伸司が担当している。
第一話では、三上博史演じる施設長が子供たちに「オマエたちはペットショップの犬と同じ」と言い放ち、里親に気に入られて引き取ってもらえるよう「かわいげ」を教え込むシーンがあった。また、里親の同情を誘うために上手に泣くよう仕込み、それができるまで食事を与えない場面や、施設長の平手打ちで鼻血を出した少女がバケツを持って立たされるなど、衝撃的なシーンのオンパレードだった。
こういったシーンについて、世間が施設や職員の実態を誤解する恐れや、ドラマがきっかけで施設出身の子どもが学校でイジメられる危険性などが指摘され、今回の抗議騒動につながったようだ。
一連の抗議に対し、日本テレビは「子供たちの心根の純粋さや強さ、たくましさを全面に表し、子供たちの視点から『愛情とは何か』ということを描いた」とコメント。「子供たちを愛する方々の思いも真摯に描いていきたい」とし、今のところ放送中止を検討する考えはないことを表明している。
ネット上でも賛否両論が巻き起こっており、慈恵病院の抗議がある以前から施設関係者たちが以下のような批判的な書き込みをしていた。
「マスメディアが児童養護施設について歪んだイメージを撒き散らしたら、その煽りを受けるのは、今まさに施設で暮らしている子供たち。彼らはただでさえ生きづらいのに、重ね重ね偏見で見られて、さらに傷に塩を塗り込められるようなことになるのではないかと危惧します。フィクションでも影響は大きい」
「ひどいな…泣けとかペットショップとか…。施設でこんな事やる訳ないじゃん。虐待を受けて施設に来た子どもが安心して暮らせるようにホントの職員は仕事してるのに」
施設関係者からは批判が多いが、その一方で施設の出身者だという人達からは以下のような擁護の声も上がっている。
「施設は最初、あのドラマみたいに怖かった。職員も悪魔に見えた。だから大人の視点ではなく子供の視点でドラマにしてくれてめっちゃ感謝してる」
「三上博史さんのセリフは、施設の子どもたちが聞いていた社会からの圧力。表面的には誰もそんな事を言わない。でも聞こえていたんだよね。私達は大人の態度から表情からそれを読み取っていた。言語化された事がむしろ小気味いい」
ドラマが現在の施設の実態や制度とそぐわない点が多々あるのは事実だが、過剰ともいえる演出が問題の本質を突いているとの見方もあるようだ。
児童養護施設をめぐっては、06年に女性保育士が入所している10代少年に性的関係を強要した事件や、95年に千葉県の養護施設で「金属バットや木刀で殴打」「足を包丁で切る」「男児の性器を切りつける」「強姦」などといった非道な虐待が繰り広げられた事件などがメディアで騒がれたこともあった。もちろん、多くの職員は子どもたちを守るために尽力しているが、こういった一部の事件の強烈なイメージがなかなか消えないため、ドラマといえども施設内虐待を描くことに過敏にならざるを得ない側面もありそうだ。
「脚本監修の野島氏は『家なき子』をはじめとした未成年が主人公の感動ストーリーに定評がある一方、その演出として暴力や虐待、性描写を頻繁に使います。視聴者にインパクトを与える手っ取り早い手段だからでしょうが、今回は児童養護というデリケートな問題が絡んでいるため、配慮が足りない部分があった。日テレ側の強気な姿勢を見る限り、今後の展開には相当な自信がある様子ですが、その一方で脚本監修として大々的にクレジットされていた野島氏の名前が騒動後に公式サイトから消えるなど及び腰になっている面もある。野島氏の新たな代表作となる可能性もありましたが、それを放棄したのは不安要素といえます」(芸能関係者)
初回平均視聴率14.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好発進し、今回の騒動によって良くも悪くもさらに注目度が上がった同ドラマ。視聴者を納得させるほどのストーリー展開を見せることができれば評価はうなぎ上りだろうが、駄作となってしまえば差別的ドラマとして野島氏の命取りになりかねない。いろいろな意味で今後の展開から目が離せなさそうだ。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)