苛立ちながら、諦めながら、しかしそれなりに楽しんでいた。それがアイドルをめぐる状況についての私の2013年だった。この不定期すぎる連載もグダグダすぎて恐縮しながら5年目を終えようとしている。「アイドル戦国時代」というバズワードは以前ほど聞かなくなった気がするが、それはアイドルが文化として定着したからかもしれないし、同時にマーケットが拡大しきってパイの奪い合いがさらに激化するタイミングなのかもしれない。
苛立つと言えば、アイドルのロックフェス進出をめぐる言説の多くにもそうした感覚を抱き、Yahoo!ニュースに執筆した「ボロフェスタ2013」のレポート「世の中何が起こっても不思議じゃないんだ ソウルフラワーBiS階段出演『ボロフェスタ2013』レポート」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/munekataakimasa/20131202-00030264/)でも表明してしまった。
相変わらず「アイドル戦国時代」以前の2000年代の地下アイドルシーンが存在しなかったかのように語られるのにも辟易していたが、2013年12月22日のChu!☆Lipsの2年ぶりの復活ライヴを見ることで、それが私の虚妄ではなかっとも確信した。復活前にidol schedulerで彼女たちにインタビュー(http://www.idolscheduler.jp/interview/131221/01/)できたのも今年の良い思い出のひとつだ。
アイドルのデビュー、解散、活動休止、あるいは脱退、加入というニュースを連日のように見ていた気さえする。このめまぐるしさは、インフレだろうか、デフレだろうか、あるいはバブル崩壊の予兆だろうか?
2013年は楽曲単位での選考とした。
■1位:BiS「Hide out cut」
シングル「BiSimulation」カップリング。「またひとり去っていった輝かしいアイドルの記憶とともに BiS『BiSimulation』」(https://www.menscyzo.com/2013/03/post_5592.html)で紹介した。
結局のところ、2013年はこれを超える楽曲がなかった。ピアノの伴奏から始まる、松隈ケンタならではの美しいメロディー。マネージャーの渡辺淳之介がJxSxK名義で書いた歌詞は、その翻訳(http://goo.gl/53ZAMH)からも真意について様々な邪推ができてしまう。
この時期のBiSはワキサカユリカの脱退前にして、今振り返ればテラシマユフとミチバヤシリオも脱退を念頭に置いていた時期だ。さらに辻本翔マネージャーもBiSから去った頃であり、2012年春以降のメジャー・デビューに向けた体制が大きく崩れてきた時期でもあった。そうした状況下でこの名曲が生まれたことには、The Beatlesの「Abbey Road」のB面をも連想した。「壊れつつあるからこそ生み出せる美しさ」なのだ。
アイドル側で起きていることは、当然だがヲタ側には知りえない。ただ、何かが起きているがゆえに異様な輝きを放つ作品が届けられることがある。そんな楽曲である。
非常階段とBiSのコラボレーション・BiS階段によるアルバム「BiS階段」の収録ヴァージョンもエモーショナルで、CDよりもノイズが多めのアナログ盤のヴァージョンを推薦したい。
■2位:dancinthruthenights「マジ勉NOW! feat.新井ひとみ」
これはリード・ヴォーカルこそ東京女子流の新井ひとみではあるが、厳密に言えばtofubeatsとokadadaによるユニットによる楽曲に彼女が参加した形式なので、アイドルポップスに分類していいのかという問題もある。とはいえ、これを無視するのは無理というレベル。ディスコなサウンドに乗る新井ひとみのいきいきとしたヴォーカル、そこに絡むtofubeatsとokadadaのラップ。ユーモアに満ちているのも素晴らしい。
「勉強」をテーマにしたこの楽曲の後、tofubeatsはかつて「勉強の歌」を歌った森高千里を迎えて「Don’t Stop The Music」をリリースすることになる。かくして「マジ勉NOW!」は、現在のアイドルと往年のアイドルをつなぐ楽曲となった。
■3位:エレクトリックリボン「不安定オンライン」
待望の全国流通盤である「エリボンちゃん」の収録曲。今年のエレクトリックリボンは「TOKYO IDOL FESTIVAL 2013」にも出演する快進撃を見せた。「不安定オンライン」は、ユニット内のソングライターのasCaによるメランコリックな作風が光る。終盤ではNAOMiとericaのツイン・ヴォーカルにそれぞれ異なるメロディーを歌わせていて、まるでフリッパーズ・ギターの「スライド」のようだ。
2013年10月19日のライヴの特典CD-Rではあるが、ericaを迎えた編成でレコーディングし直した名曲「レプリカプリコ」も入手を勧めたい。エレクトリックリボンが完全に過去を乗り越えた名トラックだ。
■4位:クルミクロニクル「午前11時」
アルバム「クルミクロニクル」の収録曲。2013年に現れた16歳の新人にして、何枚かのCD-Rを発売しながら、アルバムのリリースまで一気に突き進んだ。この「良家の子女」といったたたずまいの女の子が、エレクトロなサウンドで歌って「EDM女子高生」とも形容されるようになる運命の不思議。派手さこそないが、そういう次元ではない魅力が彼女にはある。落ち着いた声質であるクルミクロニクルをオーディションから選んだ側も冒険をしたものだと思う。しかし、それは完全に正しい選択だった。
クルミクロニクルに過去の何人かのテクノポップのアイドルを重ねてしまうことがある。しかし、その過去との決別をもたらしてくれるのもクルミクロニクルなのだ。
■5位:ゆるめるモ!「SWEET ESCAPE」
アルバム「New Escape Underground!」収録曲にして、10分を超える大作。ジャケットがクラウト・ロックのNEU!の「NEU!」のパロディである時点でただならぬものを感じさせるが、他の収録曲に比べてもこの楽曲が突出して異常であり、どういう経緯でこうした作品が生み出されたのかと問いだたしたくなるほどの異色作である。クリエイティヴ・コモンズの映像を用いたビデオ・クリップも含め、見事な針の振り切れ方をしている作品だ。
私もゆるめるモ!のライヴは見ているものの、「SWEET ESCAPE」のお披露目ライヴを見逃したために、いまだに生で聴けたためしがない。