衝撃的な報道だった。「週刊文春」(11月28日号/文藝春秋)でAKB48の総支配人である戸賀崎智信氏が“脱法ハーブ”を常習的に吸引しているとスッパ抜かれたからだ。しかも戸賀崎氏自身が出資するバーの踊り場階段で、コソコソと脱法ハーブを吸引する写真までバッチリ押さえられてしまったのだ。戸賀崎氏は「文春」の取材に対してこう答えている。
「仮にやっていたとしても合法ハ−ブ。問題あるんですか? 法にのっとって!」
戸賀崎氏がいうように“脱法ハーブ”は合法なのか? 何がいけないのか? 『あぶないハーブ ─脱法ドラッグ新時代─』(小森榮/三一書房)からその実態を紹介したい。
脱法ハーブはここ数年来、若者を中心として爆発的に広がり、さまざまな社会問題化している薬物である。覚せい剤や大麻と同じ効果をもたらすが、しかし現行の薬事法では規制薬物と指定されていない成分を使用しているため、“脱法”と称されている。しかし決して法に適ったものではない。ハーブやお香などの名称で“合法”を装っており、体に良さそうなイメージをもつ向きもあるが、れっきとしたドラッグなのだ。
「『ハーブ』『お香』などと呼ばれていますが、(略)まったく別物で、乾燥植物片に合成カンナビノイドという化学成分を添加したもの」が脱法ハーブの正体だという。問題はこの合成カンナビノイドという物質だ。
これは大麻の有効成分の類似した化合物で、人工的に合成されたもの。効果は大麻とほぼ同じなのだが、しかし、摘発を逃れるのに最適なものだという。
「大学や製薬会社の研究室で生み出され、発表された合成カンナビノイドは数百にものぼる」「多少の専門知識があれば、既知の合成カンナビノイドの化学構造に手を加えて類似物質を生み出すこともできます」
そう、脱法ハーブとは変幻自在な人工的ドラッグだ。ドラッグ業者は法規制に対応し、新成分を配合した新ドラッグを次々と供給する。そして取締り当局とのいたちごっこが現在でも続いている。
その種類は多岐にわたり、覚せい剤に似た作用をもたらす「バスソルト」、LSDやマジックマッシュルームに似た幻覚性物質、MDMAのようなピペラジン類など多様な物質が出回っているという。これらはアダルトショップの奥に漢方薬風の健康食品に混じって陳列されていたり、雑貨店や露天でも「合法で健康にもいいハーブ」などとして売られている。ときには自動販売機でというケースもあったという。
若者にとっては敷居が低く、オシャレ、流行といったイメージに加わることで、違法認識が低く罪悪感が取り払われる傾向にある。だが繰り返すが、“脱法ハーブ”は従来のドラッグと化学構造が多少違うだけで、れっきとしたドラッグなのである。化合物であることを考えると、その危険性は大麻以上かもしれない。
2012年5月には脱法ハーブを吸引した上、車を暴走させてひき逃げ事故を起こすという事件が起こっている。また救急搬送も2011年に比べ12年は20倍になり、急性中毒の問い合わせも激増しているという。海外では急性中毒での死亡例もある。
「若年層が多いのが特徴で、なかには痙攣、頻脈、呼吸困難、血圧低下重篤な症状も報告」されているという。また、制御不能な行動、精神病やてんかんの発症、依存や発がん性の危険性なども指摘されるなど、人体にも多大な影響があるのは言うまでもいない。
かつて「覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか」というテレビCMがあったが、この言葉はそのまま脱法ハーブにも当てはまる。“ハーブ・お香・合法”などといった誤った認識、イメージに惑わされてはいけない。
実際、「文春」にスクープされた戸賀崎氏の言動は中毒者そのもののようだ。愛用の銀色の吸引具で1日に何度も吸い、多い時で2、30分に一回という頻度。元側近によれば「中毒状態」だという。
「突然吠え出したり、数分前に言ったことを何も覚えていなかったりする」「吸った後は目が完全にイッてますよ」(「週刊文春」より)
法律の網をかいくぐる危険なドラッグ。それこそが“脱法ハーブ”の正体なのである。