「ダヤ(ッ)」(ずるい)
いろんな場面で使われる言葉だ。カードや麻雀をしていてズルをした時、家でアイスクリームを一人で舐めている時、買い物に行って自分の服だけ衝動買いしてしまった時、などなど。
「ダヤ(ッ)・モ」は、(あんたは、ずるい)だ。きつい言葉で投げかけられたり、睨まれながら言われたら、「何でだよ」と反論してしまうが、甘い声で言われたら、けっこう楽しめるシチュエーションが、待ってたりもする。
ピーナは「ずるい」や「ケチ」が嫌いだ。自分がそう思われることは、もっと嫌いだ。だから「ダヤ(ッ)」を上手く使うと、奢ってもらったり遊びに連れて行ってもらったりと、楽しんで親しさが増すことにもつながる。
「ヒンディ・アコ・ダヤ」(わたしはずるくないよ)と言ってコーヒーでも奢ってくれれば、そこで話す機会ができる。もちろん、その後に奢り返さなければならないが。
日系企業の専務をしていたS氏は、「ダヤ」と言われて2度メイドに逃げられた。
S氏は頭の切れる人物で通っている。堅物ではないが、イエス・ノーをはっきりと言い、顔も効くが恐れられてもいる。米国の大学を卒業後、フィリピンの大学で講師をしていた。そこで知り合ったピーナと結婚。子供は一人。現在59才だから、30数年の在住になる。
奥さんも仕事をしているためか、一人でアパート生活。土曜日には、子供と奥さんの待つ家へ帰る、という生活を続けている。メイドを雇っているが、堅物でないS氏は当然のこと(?)に、セックス付きだ。
「女房に給料は全額渡して、30万だけ俺が貰う。だから、俺が何をやっても文句は言えないんだ」
と、大きな口を開けて笑っていたが、なるほどそういう手もある。それなりの給料を得なければ、出来ないけど。
3年ほど前の出来事だが、ある日S氏の所へ遊びに行くと、メイドが変わっている。
「メイドさん、変わったんですか?」
「あっ…ああ。ははははっ、時々変えたほうがいい。ははは…」
と言う。
「なるほど…」
お盛んだなと思った。
数日後、俺の住むビレッジで、その辞めたメイドとバッタリ出くわした。
「あれっ…いまどこにいるの?」
「ロード18のRさんのところ。」
フィリピン人の家で、メイドをしているという。
「そう。何で辞めたの?」
何気なく聞いたことに対して、返ってきた言葉が、
「ダヤ・エ・シャ」(あの人ずるいんだもん)…だった。少なからず驚いた。イメージとは違う。
家が近いせいもあって、そのメイドと度々会うことがあった。親しくなって下半身ジョークも出るようになったとき、彼女は言った。
「あはははっ…思い出した」
「何を?」
「Sさん…早いのよ。」
「早い?」
「あはははっ、早く終わっちゃうのよ。ダヤ・エ…」
S氏は、早漏だったのだ。