「私たちはハロプロエッグを辞めさせられて2年間アップアップガールズ(仮)として頑張ってきました。今日は、その皆でがんばってきた、全てを、全てを、全てを、ここで皆さんに見ていただきたいと思います」
年明け早々の、中野サンプラザ。毎年正月恒例となっているのが、モーニング娘。、Berryz工房、℃-ute等を要する一大アイドル軍団・ハロープロジェクトのコンサート(通称ハロコン)である。今回は、15周年ということも有り、ハロプロ勢だけでなく縁の有るOGや関係者をゲストに招いての華やかなイベントとなった。
そんな中“ハロプロエッグを辞めさせられて”というユーモラスでありながらもショッキングな発言を投げかけたのは、アップアップガールズ(仮)というインディーズアイドル。全員が妹分ハロプロエッグ(現・ハロプロ研修生)出身にもかかわらず、現在はワケあってハロープロジェクトには加わっていない7人組である。
自己紹介に続き、僅か一曲だけ与えられたお披露目曲「チョッパー☆チョッパー」は、疾走感あふれる高速ビートに戦闘的な歌詞を叩きつける彼女たちの代表曲。格闘技のチョップを取り入れたユニークな振り付けと、「NO MUSIC!! NO IDOL!!」というコール&レスポンス、さらに広いステージを隅から隅まで走り回りながらのダイナミックな煽りも加わり、僅か5分少々の出演にもかかわらず大きなインパクトを与えた。
彼女たちが“辞めさせられた”と嘆く、ハロプロエッグとは、2004年に1万を超える応募者の中から僅か30数名を絞り込んで結成された、ハロープロジェクトの研修組織である。モーニング娘。をはじめとする、先輩ユニットのバッグダンサーを務めるだけでなく、新人公演と呼ばれるコンサートを行い、ピーク時は数千人単位の集客を誇る人気を集めていた。出身者でユニットTHE ポッシボーやスマイレージが結成されたり、真野恵里菜や吉川友のようにソロデビュー、また℃-uteやモーニング娘。のメンバーに昇格して、アイドルになるという夢を叶えた人間も多い。
苛烈な競争が繰り広げられるアイドル社会。華々しいスポットライトの当たる場所に立つ同期や後輩を間近に見ながら、いつか自分たちもチャンスを掴もうともがき続けていた少女たちに、非情な通告が成されたのは2010年の夏だった。事務所の方針転換により、高校生以上のメンバー、さらにパフォーマンス能力が劣るとされた年少者も、一斉にリストラされることとなったのである。
夢叶わなかった落ちこぼれたちを集め、ひっそりと旧ユニット名であるアップフロントガールズ(仮)が結成されたのは、翌2011年春のこと。すぐ現在のアップアップガールズ(仮)という90年代のセクシーユニットを思わせるグループ名に変わったものの、待っていたのは茨の道だった。
衣裳は「(仮)」とプリントされただけの、オシャレとも可愛いとも言い難いTシャツのみ。1年近くは、かつてエッグ時代新人公演を行っていた舞台とは比べ物にならぬ小さなライブハウスで、モーニング娘。や℃-uteなどのカバーを披露していた。
自分たちが憧れていたものの、共に活動する夢を叶えられなかった先輩グループの曲をカバーする哀しみは、ダンスの先生もボーカルトレーナーもつかず、鏡もない会議室で、YouTubeを元に振り付けを覚える砂を噛むような日々を過ごす中募るばかり。将来の見えぬ不安から、いつ辞めようかと悩んだり、辛さに泣きだすメンバーもいたという。
思春期の少女たちにとって長すぎる下積み生活がようやく実を結ぶのは、エッグ入りして8年もの月日が流れた昨年の春。先輩のカバーでないオリジナル曲を発表する機会を与えられ、インディーズデビューすることとなったのだ。7人全て学年がバラバラ、そもそも研修時代には、挨拶程度しか会話もない関係の人間もいた。決して皆の仲が良かったわけでもなかったメンバーたちの絆は、徐々に深まっていく。遂に長すぎる助走期間に見合うだけの、怒涛の快進撃が、ここからスタートする。
ファーストシングル以降、ほぼ毎月ペースで、気鋭のクリエイターによる新曲をリリース。さらにはライブハウスや小規模ホールでの定期公演の他、他のアイドルも出演するイベントに数多く出演。エリート集団の一員として鍛え上げられたエレガントな基礎に、上を上を目指すという野心に満ちた足軽のような逞しさも加わった彼女たちは、アイドルファンの心を掴み、知名度を高めていった。
昨年末にはタワーレコードのアイドル専門レーベルT-Palette Recordsに移籍、今年に入るとまずは、冒頭で述べたとおり、憧れの先輩や共に汗を流した同期後輩の前で、爪痕を残すハロープロジェクトコンサート出演。また春には、彼女たちが以前エッグ時代定期的にライブを行っていた思い出の地横浜ブリッツで単独公演を行い、演者もファンも涙を流すエモーショナルなステージを披露した。
ようやく過去に負った哀しみも癒え、第二章を歩み出した彼女たち。今夏は最大のアイドルイベント・東京アイドルフェスティバルで爆発しただけでなく、ロッキンジャパンフェスにも登場し、アイドルマニアに留まらぬ支持を集めつつある。
アイドルは、所詮作りものに過ぎないと揶揄されることも多い存在だ。しかし彼女たちの背負ってきた物語を知らずとも、絶え間ない研鑽によって磨き上げられたパフォーマンスをみれば、本物の輝きを感じ取れるはずだ。
敗者が汗と涙にまみれ傷だらけで立ち上がり、まだ戦いは終わっていない!と、リベンジに挑む姿は、名画を観た時のように、男たちを熱くさせ時には涙ぐませる。今ならまだ小さなライブハウスや、ショッピングモールのイベントスペースで間近に彼女たちの姿を見ることができる。7人の女侍の暴れっぷりを、目に焼き付けるべし!
(文=ピーピング・トム・ソーヤ)