フィリピンパブへ通ったことのある男性の中には、「クラッシュ・ナン・アコ・サ・イヨ」と、言われた経験のある方がいると思う。(わたしは、あなたに夢中だ)(あなたのファンになった)というような意味だ。
あくまで、夢中・ファンであってラブではない。調べたことはないが、「クラッシュ」が英語から来ているのなら、(心がグラグラになった)(心がもみ砕かれた)ということになるのだろうが、気に入った芸能人に夢中になってるようなもので、センスがいいとかハンサムだからとかの理由が多い。
特に歌が上手いと、すぐにクラッシュする。中には「バシャ・ナン・パンティー・コ」(パンティーが濡れちゃった)と言って、喜ぶピーナがいる。
そう言われて調子に乗り、手を出すと失敗する。上手くいく場合もあるが、様子を見てから手を出したほうがいい。歌を聴いてうっとりしたり、見ているだけでほぼ満足しているといった場合が多いのだから。
ピーナ同士になれば、わたしもクラッシュ、わたしもよ、わたしだってと、噂話の種になっているだけと考えたほうが無難だろう。ようするに、フィリピンパブで人気があるというだけ。
人気があれば、みんな寄ってくるから楽しいが、手を出してがっかりしたり、がっかりさせたりするよりは、人気者のまま遊んだほうがいいだろう。
逆に気に入ったピーナがいたら、そのピーナの友達に「あの子にクラッシュした」と、つぶやくように打ち明けるといい。次の日には全員に広まっていて、当の本人は流し目を送ってくる。他のピーナは後押しをするといった具合で、上手くいく…可能性は高い。
6年ほど前に、某日系企業の社員で、自ら希望してフィリピンに赴任してきた、Kという30代前半の男性がいた。日本では、フィリピンパブが大好きで通っていたという。ピーナの明るさや陽気さ、歌の上手さに魅かれて、病み付きになったらしい。フィリピン出向の話があったときは、半ばごり押しの希望を出して、赴任してきたというから、根っからのピーナ好き。
会社にもピーナ、買い物に行ってもピーナ、モールを歩けばピーナだらけ。K氏は、そんな生活を楽しんでいたが、どうも違うと思い始めた。当たり前である。会社にもモールにも、出稼ぎのじゃぱゆきさんは、いない。
日本では結構もてて、数年の間に数人のピーナと遊んだが、フィリピンに住んでいるピーナに声を掛けても、上手くいかないという。当然だろう。指名を得るために、会社勤めやデパート勤めをしているわけではない。日本のフィリピンパブでもてたからといって、そう簡単にクラッシュしてくれるわけがない。
半年も経たないうちに、K氏は日本人向けのカラオケスナックへ通うようになった。日本のフィリピンパブのシステムと大して変わりがない。もてないと悩んでいたK氏は、生き返ってしまった。
数度、一緒にのみに行ったが、K氏は歌が上手くジョークもポンポンと飛び出して、お店の人気者になってしまった。「クラッシュ・ナン・アコ」とつぶやくピーナが、3人ほどいた。
2カ月ぐらい経ってからだったか、
「いいの見つけましたよ。B店のYちゃん」
K氏は、子供のように喜んでいた。会社から与えられていたコンドの自室へ誘い、いただいたらしい。
「やっぱりいいですねピーナは。フィリピンに来て初めてですよ、やったの。陰毛が薄くて、よく濡れて…肌がきれいで、弾んで…」
K氏は、ピーナというよりも、ピーナとのセックスが好きだったようだ。
「あまり声を出さないんですけど、もだえる姿がエロっぽくて、フェラチオなんてすごいんですよ。舌のざらざらと…それに上あごにもざらつきがあって、そのまま口の中に出しちゃいましたよ」
などなど。自分の女になったピーナのセックススタイルを、笑いながら話し出した。クリトリスが小さいだの、濡れ方がすごいだの・・・普通、常識的に考えて、自分の女の話はしないと思うのだが。K氏は、得意げになって話をする。
B店のYちゃんというのは、天然パーマのゆるいカールが、ふっくらとした顔に見事にマッチした可愛いピーナだ。身体もふっくらとして、ミニグラーマーとでもいうか、男をそそる顔とボディをしている。一番最初に「クラッシュ・ナン・アコ」と、騒いでいたピーナだ。
「M店のJちゃんと、やっちゃいました。」
Yちゃんとやってから、1カ月しか経っていない。K氏は、またまた自慢話のように、Jちゃんの腰つきがどうの、キッスがどうの、おっぱいやお尻の動きがいい。と、始まった。
M店のJちゃんもミニグラマーなボディだ。K氏の好みは、小柄で愛くるしい顔をしたピーナが好みのようだ。どちらも、30才近いが23・4才にしか見えない。
数日後、暇つぶしにM店へ一人で行った。あまり指名をしない俺は、いつものように2~3人のピーナと歌い、ジョークを言い合って楽しんでいた。そこへ、入れ替わりでJちゃんがやってきた。
乾杯をした後に、Jちゃんは「Kさんは、BのYとどうなってるの?」と、いきなり聞いてきた。
「…わからない」
と、答えるしかない。「Jちゃんより濡れるらしいけど、おっぱいはJちゃんのほうがいいって」と答えるわけにはいかない。
「ふ~ん、そう…C店のMちゃんとは?」
(えっ?)
K氏は、何人とやってるんだ? それも同時進行か。さすがの俺でも、同時進行で3人はやったことがない。いや2人の同時進行でも、1~2度しかない。
「けっこう噂があるんだよ。Kさん」
だろうなぁ。お店は違ってもどこかでつながってるはずだ。
「クラッシュしたけど、ダメだねあの人」
Jちゃんのこの一言は、YちゃんもMちゃんも同じであったろう。
一週間後、K氏を誘ったら
「いや、やめときます…忙しいんで…」
と言ったが、K氏の顔から判断すると、どうも人気者から嫌われ者に変わってしまったみたいだ。
その後、K氏は少し落ち着いて遊び方が変わったが、ピーナ好きは変わっていない。「クラッシュ」にだけは、気をつけているようだ。
(文=ことぶき太郎)