妊娠・出産・育児NOTE』
セブン&アイ出版
一昔前であれば数えるほどしかいなかった女芸人たち。しかし今や森三中やハリセンボンといった名前を出すまでもなく、彼女たちはテレビで欠かせない存在となっている。ニッチェなどの活躍も目覚しく、中堅の男性芸人があふれるテレビバラエティで、彼女たちはますます存在感を増している。
しかしそんな中にあって、女芸人の先駆者的立場である青木さやか(40)の様子がどうもおかしい。「どこ見てんのよ!」でブレイクしたかつての面影がまったく見当たらないのだ。
たとえば、15日に放送された『ストライクTV』(テレビ朝日系)に出演した青木は、芸人らしいコメントは一切せず、MCの太田光(47)から、離婚した際の話を振られても、「暗い話になったらごめんなさい」となぜかしどろもどろになっていたのだ。同じく番組に出演していた美保純(52)や島崎和歌子(40)のほうがよっぽど面白かったという具合だ。
しかし青木とすれば、それは当然なのかもしれない。今年1月に『ブラマヨとゆかいな仲間たち アツアツっ!』(テレビ朝日系)に出演した際に、はっきりと、「自分のことを芸人だとは思ってない」と語っていたからだ。
その番組で青木は「一番大事にしているのは“面白い”ではない」と言い、「(一番大事なのは)女だ」と宣言している。この発言を芸人ならではのボケと捉えるか、それとも青木の本音と捉えるかは難しいところだが、近頃の青木の活動を見ているとどうやら本気のようである。ドッキリに仕掛けられても“おいしい”と感じるより“恥ずかしい”と思い、バラエティより女優業に快感を覚えたという言葉がそれを物語っているといえるだろう。
かつては、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)でも散々イジられてきた“女芸人”青木さやかも、今ではすっかり影を潜めている。しかしそれなら女優業に専念すればいいものを、バラエティにも未練があるのか、顔を出す青木。そんなどっちつかずの状態では、今後の芸能活動にも不安が残る。
また、青木とは少々事情が異なるが、北陽の虻川美穂子(38)も、最近は女芸人としての活躍より、“悩める主婦”でのテレビ出演が多くなっている。
昨年12月に放送された『解決!ナイナイアンサー』(日本テレビ系)では、旦那とのセックスレスを解消したいと相談を持ちかけ、涙を見せていた虻川。その放送の反響が大きかっただけに、その後も『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)などに出演した彼女は、旦那とのエピソードばかりを話し、ぼやいたりノロけたりしている。もちろん夫婦生活をネタにすること自体は、女芸人ゆえの笑いといえるし、それができるほど2人の仲が良いということかもしれない。しかし、あまりにも一辺倒すぎる内容は、虻川の女芸人としての自覚を疑ってしまう。
かつて、「女芸人は恋をしたらつまらなくなる」と言ったのは女漫才師として活躍した西の女帝・上沼恵美子(58)。そんな上沼は、結婚をきっかけにこれ以上やっても笑いは取れないと、当時国民的な人気を博していた海原千里・万里を解消したという。その後も上沼は芸能界で活躍するが、自身のことは芸人ではなくタレントだと明言している。女芸人であり続けるには、恋を諦め、一般的な幸福を手に入れては難しいことを上沼は身をもって体現しているのかもしれない。
女芸人は“女を捨てなければならない”という風潮は今でも根強い。笑いを生むことを目的としているのだから、それは当然のことだろう。しかしそれでも彼女たちは芸人である前に女である。芸歴の浅いころは、芸を磨くことに必死だろうが、売れて余裕が出てくると芸よりも女が前に出てしまう。近頃の青木や虻川の言動が女芸人らしくないというのは、そのために違いない。
女でありながら芸人であるというジレンマ。その溝をうまく埋め、さらに芸能界で活躍するのは難しい。そうしたジレンマを見事に克服したのが友近(39)だ。
彼女の作り上げた演歌歌手・水谷千重子というキャラは、女芸人という呪縛から解き放たれる素晴らしいものだ。“昭和の芸能(歌謡)界”をリスペクトするベタなキャラ設定と、下品ではないもののわりと直接的な表現のシモネタの数々。かと思えば、乙女のような恋愛話や女性らしい言葉づかいや立ち振る舞いなど、“女”であり“芸人”でもあることを最大限利用している印象すらある。もちろん常に水谷でいるわけにはいかないだろうが、女を出せるキャラクターの存在は、友近の中で“女性と芸人”といった葛藤が生じた場合には、大きな慰みになるのではないだろうか。
青木や虻川が今後どう芸能活動を展開するかはわからないが、芸人として大きな活躍をするのは難しいだろう。女芸人の寿命は短いと言われるが、新しい道を探すにはいい時期なのかもしれない。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
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