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先日、秋葉原を歩いていると、「ご主人さま~、私と一緒にお散歩いかがですか~? 楽しく歩きましょ♪」と可愛らしい声に呼び止められた。「お散歩ってどこ行くの?」と聞くと、
「どこでもいいよ~。60分4,000円で、3時間以上ならディズニーランドでも大丈夫」
「じゃあ、いつもキミが行くところに連れていって」
試しに60分だけ付き合ってみることにした。
彼女の名前はユウちゃん、18歳。見事にメイドさんのコスプレで着飾っている。どこに連れていってくれるのかなと思ってついていくと、彼女が入ったのはコスプレショップだった。
「これ超カワイイ♪」を連発する若く可愛いメイドさんの付き添い…40歳を過ぎた独身ライターとしては何とも奇妙な気分である。別にいかがわしいことをしているわけではないのだが、ちょっとドキドキする。他の人からどんなふうに見えるのだろう? 娘連れの親子か、割り切りのエッチな関係か…。
コスプレショップから出て、カフェで話をすることにした。彼女は一体なぜ、こんな仕事をしているのだろうか?
まず、この仕事の感想を聞くと、「なかなか大変で」という。他の店のシステムについて彼女は知らないが、彼女に関していえば、完全歩合制でメイドの取り分は客が支払う額の半分なのだそうだ。「1日立っていてもお客さんがつかないこともあって…。今年の冬は寒くて、立ち続けるのはキツかったです」。
「それから、ときどき、『お小遣いあげるから…』とエッチなコトを誘ってくる困ったお客さんもいるんです。もちろん、絶対に断りますよ」
プロのヘルス嬢でも、本番プレイを求められれば断るのに精神が摩耗するという。素人の彼女が男たちからの懇願を拒否するのも、とても疲れることだろう。寒い中での立ち仕事で、接近戦の接客業…どうしてそんな大変なバイトをしているのか不思議だが、彼女によれば、秋葉原の街とメイド衣装が好きで、時には優しいご主人様との出会いもあるからだそうだ。
秋葉原の街でメイドさんたちの客引きや呼び込みが日常的な風景になったのはいつの頃からだろうか。もちろん今でもメイド喫茶のチラシを配っている女の子は多いのだが、最近はその客引きの内容が多様化してきた。秋葉原に詳しい夕刊紙記者は次のように話す。
「昨年からJKリフレと呼ばれるサービスが盛んになりました。JKとは女子高生のことで、リフレとは簡易マッサージです。最近は性的サービスに近いこともする店が出てきて、警察は摘発に乗り出しました。そこで、リフレと並んで今、秋葉原の名物となっているのが『観光案内(お散歩)メイド』です。チラシを配る女の子の中には、どちらのサービスも兼ねている子が増えています」
メイド喫茶やリフレの店でオプションとしてこうしたサービスをメニューに入れているところは、店によって「観光案内コース」と呼んだり、「お散歩コース」と呼んだりしている。一方、散歩専門の店もあり、散歩用にメイドを派遣する形だ。筆者があったユウちゃんは散歩専門の店の子だった。散歩専門なら店舗を構えなくても開業できそうで、歩合制なら人件費もかからないから、固定費でマイナスになることもないだろう。店側としてはなかなかおいしいビジネスかもしれない。
お散歩メイドと何をするかといえば、1~2時間程度、文字通り秋葉原の街を散歩する。カラオケやゲームセンターに行くルートが多いらしい。もちろん、時間に余裕があれば、一緒に映画を観ることだってできるが、散歩中の食事代や施設代はすべて客持ちだ。おねだりされて客が買い物させられるケースもあるとか。
キャバクラにはキャバ嬢との「同伴」や「アフター」というものがあり、言うなれば、お店公認のデートだ。デリヘルやホテヘルなどヌキ系にも店外デートが楽しめる長時間コースを設けている店がある。男には常に、客として見られるのではなく、プレイベートでデートしてみたいという欲求がある。いずれもそういう欲求を満たしてくれる“擬似デート”なのだが、秋葉原好きの若者たちにとってメイドさんたちとの散歩もやはり、擬似デートに違いない。
(文=上条泡介)