怪しいフーゾク編』著:筑紫太郎/宝島社
ちょんの間…ほんの10年前までは全国に点在していたこの文化も、21世紀に入り次々と摘発の憂き目にあい、もはや全国に数えるほどしか残っていない。
潰れてしまった「横浜・黄金町」や「沖縄・真栄原」など、我々サラリーマンにとって誰しも、その響きだけで憧れる夢あふれる街だった。
そんないま、残っている“ちょんの間”の多くは、関西地方に存在していることが多い。その理由として大阪府はソープランドの開店が、条約で禁止されていることから、昔からこの種の商売が土地に根付いており、他の土地に比べて警察が動きにくいことが関係しているのだが、大阪のちょんの間街と聞いて思い浮かぶのは地名といえばどこだろうか?
規模の大きさや、繁華街に近い立地から『飛田新地』と答える人が多いであろう。しかし、そんな名実共に日本ナンバー1の飛田新地を凌駕するほど、規模が大きくなろうとしていたイケイケゴーゴーのちょんの間が、同じ大阪にある。それが信太山新地なのだ。
まずは去年の末に出た、こんなニュースについて話をしよう
それは函館に住む18~19歳の少女が、ホストクラブでツケが溜まってしまったために、「大阪に仕事がある」と持ちかけられ売春をさせられていたという事件。逮捕されたのは、同市でホストクラブを経営していた男と、信太山で旅館を営んでいた男。
このニュースを聞いて筆者は、4年ほど前に真栄原(沖縄)で働く女から聞いた話を思い出した。
「ここで働く女のコは、今じゃ沖縄のコなんてほとんど居ないよ。私も大阪から2週間の出稼ぎ。その代わり、私が働いていて信太山に沖縄のコを紹介したから働きに行ってるんだ」
この女は自分が働きながら、スカウトのために積極的にここで働く地元のコに話しかけたという。信太山ではシステムとして、紹介すると客が1人つくごとに、彼女に500円のキックバックがもらえる契約だそうで、彼女は定期的に真栄原で出稼ぎに来つつ、沖縄のコに甘い言葉をちらつかせスカウトし、信太山に紹介しまくっているという。
「もうバックで結構稼げて、自分でヤルのバカバカしいから、今回が沖縄に来るの最後かな」
その直後に偶然なのか真栄原は無くなった。
そうやって、女を利用して地方の女のコを増やしまくっていた信太山新地。今回の事件が明るみに出たことによって、勢いが削がれてしまうかも知れないが、急成長のカギはそういう独自のネットワークがあったのだ。
全国のちょんの間が次々と摘発されるにつれ、拡大していった死神のような信太山新地。こういうことにかけての、大阪商人のビジネスセンスには頭が下がる思いである。
(文=浅野 悠)