そのレインボーブリッジ封鎖はアウトだ!売れたらヤバい、商業誌きってのバカ芸能マンガ

※イメージ画像:『ママはチャイドル!!(1)』
著:おがわ甘藍/講談社

 アンダーグラウンド、いわゆるアングラというのは、公にされて、見つかったら困るフィールドのことだ。だから、商業誌でアングラというのは基本的にありえない。正規の販売ルートを通って普通の書店で売られ、誰でも買える商品がいわゆる商業誌だからだ。

 ところが、ときどき商業誌にこういう作品が混じる。『ママはチャイドル!!』(おがわ甘藍/講談社)だ。

 あらすじを紹介すると、小学生アイドルの娘、霧崎リイナと中身が入れ替わってしまった元アイドルの母が「体は子ども! でも頭脳はオ・ト・ナ!」というチャイドルとして芸能界の闇を暴いていくというお話なのだが、ぶっちゃけてしまうと、その辺のところはどうでもいい。批評的には見るべきところかもしれないが、なんやかんやあっても最終的に乱交に持ち込んで、リイナの所属事務所社長である我羅那剛三が誰にも望まれてないサービスカット(中年男性のアヘ顔ダブルピースなど)をかましてオチを付けるという美しいフォーマットが貫かれている本作においては、やっぱりあらすじはどうでもいいと言わざるを得ない。

 もちろん、このあらすじだけで十分に読者に「また頭のおかしい作品が出てきた」と思わせることができるし、ついでにいうと作者のプロフィールに「93年デビュー」と書いているにもかかわらず堂々と「現役小6の12歳」とか言い放つあたりには狂気以外の表現が見つからない。実はエロ界きってのトラウマメーカーこと、サガノヘルマーの元アシスタントというウワサも、本作を読むと「ああ、そうかもな」と想わせるものがある。

 だが、本作を商業誌でありながらアングラたらしめているのは、「あなたの知らない芸能界」という副題どおり、思いっきり芸能ネタをメインに持ってきている点だ。

 芸能風刺ネタというのは、ギャグマンガではよくあるジャンルだ。『さよなら絶望先生』(久米田康治/講談社)のように、芸能人などの時事ネタを作品に盛り込みつつ、アニメ化された作品もある。芸能ネタ自体がタブーというわけではない。この手の風刺は「やっても事故らないギリギリをどこまで攻められるか」という一種のチキンレース的スリルを読者に与えてくれる。

 が、さすがに限度というものがある。本作はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係がないのでモデルはいないのだが、青島裕二(ちんたお・ゆうじ)という緑のコート(モノクロだがなぜか緑に見える)を着た刑事が全裸で「レインボーブリ~~~~ッジ」と叫びながら扉を封鎖したりする姿は、なぜか読者を「これはアウトだろ」という気持ちにさせる。陸上競技を見ながら、選手のサムソン・ゲイの名前を「俺のゲイ」と連呼する姿には戦慄の一言だ。これが誰のことかはサッパリわからないのだが、世の中には芸人にモノマネをされるのを嫌って自粛騒ぎを起こしたタレントさんもいることを考えると、チキンレースというよりも「ガソリンかぶって火薬庫に突っ込んでいる」みたいな状態に見える。

 本作はとにかく全編こんな感じなのだが、完結を迎えたラストエピソードでは、ほとんど脈絡なく霜柱震助といった芸人軍団や、アイドルプロデューサーの春本康江(正体は太ったオッサン)や「YOU…殺られチャイナよ」と独特の口調で話す芸能事務所社長・シザー北枕(正体は老人)などのキャラクターが一挙に登場。しかも、「とにかく出しておきたかっただけ」とばかりに全キャラ特に見せ場もなく瞬殺されていく。主人公リイナが瞬殺すればするほど、現実では作者が社会的に瞬殺されるんじゃないかという恐怖が読み手を襲う。

 つまり、本作は本質的に大ヒットしてはならない作品なのだ。もちろん商業誌である以上売れることを目指しているのは間違いない。だが、同時にこの作品がまかり間違って100万部とか売れてしまったら、各方面から怒られることは間違いない。商業誌でありながら、“見つかったら困る”アングラ作品なのだ。

 だから、これを読んだらお前ら、静かに騒げよ、と。間違いなく今しか読めない作品だけれども、我々がこの作品について語れるのは、全てが水に流されるだけの、10年単位の時間が経ってからだ。10年後、たっぷりこの作品について盛り上がるために、今読んでおきたい1作なのだ。
(文=小林 聖)

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