■6位:Lucky Color’s「lovely」
沖縄のLucky Color’sによるシングル「ハートの呪文」のカップリング曲。このシングルは地元以外では入手が難しく、一時はハイパーロコドルキュレーターのうのう氏が沖縄から取り寄せたCDを路上で密売してもらうしかない状況だった。R&B色の強いトラックが並ぶ中でも「lovely」はポップな魅力を放つ楽曲。「ハートの呪文」はぜひ何らかの形で全国流通してもらいたいCDだ。
■7位:AKB48「ちょうだい、ダーリン!」
「真夏のSounds good!」Type-A盤のカップリング曲。野中”まさ”雄一のアレンジワークが光るオールディーズ風歌謡だ。このメロディーとサウンドに乗ると、秋本康によるベッタベタな歌詞も異様な輝きを放っている。
■8位:でんぱ組inc.「強い気持ち・強い愛」
シングル「でんぱれーどJAPAN」のカップリング曲。小沢健二の「強い気持ち・強い愛」カヴァーであり、作詞が小沢健二、作曲が筒美京平、編曲が前山田健一という、盆と正月とコミケが一度に来たかのようなトラック。でんぱ組inc.が歌うことで、筒美京平がこの楽曲に込めた歌謡性が突如息を吹き返すことになった。プロデューサーであるもふくちゃんこと福嶋麻衣子の趣味性が出た選曲だが、同様の趣味でかせきさいだぁを作家に起用した楽曲も軒並み佳曲だ。
なお、でんぱ組inc.の古川未鈴は「MARQUEE」vol.94のインタビューでChu!☆LipsとFeamのダンスからの影響を語っており、かつての地下アイドルシーンについての見識の高さに感銘すら受けた。
■9位:Tomato n’Pine「PS4U」
「濃い色彩で彩られた「最後の楽園」! Tomato n’ Pine『PS4U』」(https://www.menscyzo.com/2012/08/post_4496.html)で紹介した。
12月29日での「散開」が告知された今となっては何を言っても遅い感がある。優れた楽曲が集まっているだけで名盤になるというわけではない。そうさせたのは、ここに詰め込まれた玉井健二とジェーン・スーによるアイデアの膨大さだ。
■10位:Especia「DULCE」
「堀江系」と銘打った大阪のグループのデビュー・シングル。配信、カセットテープ、CDという順番で聴くことになった不思議な形態の音源だ。ソウル、ファンクの要素が詰め込まれて、生のブラス・セクションも心地いいSchtein & Longerワークス。ライヴでは山下達郎の「MIDAS TOUCH」、ラッツ&スターの「め組のひと」をカヴァーするなど、ナイアガラ・レーベル周辺から私のような人間を狙い撃ちにしている感が半端ない。
次点としては、lyrical school「リボンをきゅっと」、BELLRING少女ハート「僕らのWednesday」、Cutie Pai「Trancetic Mode」、ゆうぎ王「湿気ガール」、さくら学院関連の諸作を挙げたい。
lyrical school「リボンをきゅっと」はtofubeatsの手による待望のパーティーチューン。
BELLRING少女ハート「僕らのWednesday」は「シンセを生のブラスに差し替えましょう」と以前から運営に言っているので、引き続き検討をお願いしたい。
Cutie Pai「Trancetic Mode」はiTunes Store配信とライヴ会場限定CD-Rのみのシングル。ゆうぎ王「湿気ガール」は、80年代の中森明菜がドラムンベースで歌っているかのような楽曲。さくら学院関連は「WONDERFUL JOURNEY」のカップリング「Song for smiling」、BABYMETAL「ヘドバンギャー!!」、さくら学院科学部「サイエンスガール▽サイレンスボーイ」と佳作ぞろいだ。
また、Negicco「Negicco 2003~2012 -BEST-」は編集盤なので選考から除外したが、基礎教養として持っておきたい1枚。
こうしてベスト10を挙げてみたが、メジャーレコード会社からリリースされたのは半分の5枚のみという結果になった。アイドルというのは資本のある事務所とレコード会社が売り出すものだったはずだが、現在となってはインディーズ流通の作品が実に多い。人気が出たらメジャーへ行く狙いのあるアイドル(というか運営)もいるだろうが、そもそもそうした志向性自体がないアイドルもいる。本来は芸能界が生み出した「産業」のひとつであったはずのアイドルだが、商売を無視してアイドルの「文化」の部分だけを志向するインディーズ勢もいる。
話題は冒頭に戻る。アイドルブームはいつまで続くのか。採算が取れないアイドルはやがて次々に解散していくことになるかもしれない。ただ、現在活躍するアイドルの多くがモーニング娘。を見て育った世代であるように、今AKB48を見ている世代にアイドルという文化はすでに確実に記憶されただろう。AKB48公演の東京ドームで、私の前には両親に連れられたふたりの幼い姉妹がおり、見事な振りコピをしながらはしゃいでいたことを思い出す。
そう考えると、アイドルブームが続こうが終わろうがどちらでもいいように思う。すでにこの数年で次の世代のアイドルを生み出す準備は整った。産業として一度は衰退しても、文化として残ればいつかまた波は来る。次のアイドルブームはすでに準備されたのだ。