遠隔操作の「なりすましウイルス」による犯行予告事件が波紋を広げている。この事件では、犯行予告を書き込んだとして逮捕された4都府県の男性4人が誤認逮捕されていた可能性が判明。三重県警は19日、伊勢神宮の爆破予告事件で逮捕した男性に誤認逮捕を認めて正式に謝罪。大阪府警も、殺人予告事件で逮捕したアニメ演出家・北村真咲さんの誤認逮捕を認め、起訴を取り消したうえで謝罪する方針を固めた。警視庁と神奈川県警も、近く誤認逮捕を謝罪する。
今回の事件は、なりすましウイルスそのものよりも、捜査機関のIT犯罪に対する知識のなさが露呈したことが大きな問題だったといえる。近年、秋葉原連続殺傷事件の影響などで犯行予告の検挙数が急増したが、警察はIPアドレスを割りだして犯人を特定するという捜査方法をとっていた。これが固定観念となり、ウイルス感染した他人のPCを遠隔操作するという手口に全く考えが及ばなくなっていたようだ。
「誤認逮捕の可能性が高まった当初、警察関係者は『遠隔操作ウイルスは極めて高度な技術』と言い訳していたが、実際は新しい手法でもなく、高度なプログラム技術も必要ない。プログラマーとして数年働いている者ならば、簡単に作成できるレベルのものだった。他人のPCを遠隔操作するという手口も古典的。逮捕された本人が全く覚えがないと否定しているのに、なぜ警察が遠隔操作の可能性を考慮しなかったのか不思議なくらい」(IT関係者)
さらに、逮捕された4人のうち、無実のはずの2人が犯行を自供しており、警察による自白の強要があった疑いも強まった。また、神奈川県警に殺害予告で逮捕された明治大学の男子学生は、保護観察処分を受けた末に大学をやめたとされており、誤認逮捕がきっかけになったのではないかとネット上で憶測が広がっている。
マスコミの知識のなさも浮き彫りになった。時事通信社は18日、ウイルスを解析した情報セキュリティー会社「ラック」の西本逸郎専務理事による解説として「ウイルスは『Visual Studio 2010』というソフト開発ツールを使って作成されていた。数万円から数十万円以上する専門的なソフトで、素人が購入することは考えにくいという」などという記事を配信した。このソフトが犯人追跡の手掛かりになるかのような書き方だが、同ソフトはプログラムを経験した人間であれば誰でも使ったことがあるような基本的なソフトであり、機能を制限した簡易版は無償で提供されている。有償版も国際学生証があれば無料で利用することができ、犯人が違法ダウンロードでソフトを手に入れた可能性もある。こういった報道によって「高度なプログラム技術を持っている」という偏った犯人像が一人歩きするだけでなく、このソフトを使っている人が犯人予備軍に見られることもあり得るだろう。
逮捕された人間の人生を左右するほどの権力を持った警察と大手マスコミが、この程度の認識で動いていることに危機感を覚える人は多い。実際、逮捕された人たちは社会的名誉を不当に傷付けられ、相当な労力と精神的負担、時間の浪費を余儀なくされている。警察とマスコミには慎重な捜査と慎重な報道が求められる。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)