【ニッポンの裏風俗】2020オリンピック開催の影で消え行く日本の“性風俗”

 フタを開けてみれば予想外の50万人もの大観衆に見守られた、オリンピックメダリストたちによる銀座パレード。満面の笑顔で観衆に感謝の挨拶をするテレビの中の選手たちに、思わず手を振った人も少なくないに違いない。そして、勇気と感動を与えてくれた選手たちのパレードの最後尾に付けていたのは、2020年東京オリンピック誘致をアピールする広報部隊の乗ったバスだった。

 東京都は、2016年に続き、2020年のオリンピックを東京に誘致すべく、活動を始めている。前回の誘致活動はIOC(国際オリンピック委員会)総会で投票の結果、落選したのはご存知の通り。次回夏季オリンピックは南米初のブラジル・リオデジャネイロに決定した。

 そして今回、石原都政は賛成派がたった50%前後(メディアによって集計は異なるが、調査では49.9~51.8%)という厳しい世論の中、またしても2020オリンピックに名乗りを上げている。そのテーマは“夢の力”とある。

 確かにオリンピック開催期間中は、華やかな雰囲気に包まれ、経済効果も認められる平和の祭典だが、その華やかさの裏には、世界各国からやってくる観光客の目に触れる前に消去させられてしまう文化もある。ここでいう文化とは性風俗のことだ。

 日本で開催された国際イベントの歴史と、大掛かりな風俗摘発の歴史を照らし合わせてみると、両者の事実関係がわかってくる。「なるほど」と気付くのは90年に大阪で開催された花の万博『花博』である。

 花博開催まで、大阪には他の大都市と同じようにソープランドが風営法を遵守して営業していた。しかし、開催を機に「大阪に五つある新地とソープランドのどちらかを閉鎖すべし」というお達しが当局より発せられた。その結果として、ソープランドが大阪から撤退したと言われている。「そういえば、大阪にソープがないな」と気付いた人も多いはずだ。

 2002年の日韓共催FIFAワールドカップの際には、仙台にある競技場が会場のひとつになっていたことから、それまで東北一の歓楽街と言われた国分町の夜を彩っていた賑やかなピンクビラ風俗が一切姿を消してしまった。

McyzoDSC00071.jpg2002年ワールドカップ直前の国分町。まるでジュータンのように歩道に並べられていたピンクビラは激減したが、
まだ少数残っていた。
McyzoDSC00759.jpgこんな回収ボックスがいたるところに置かれていた。

「景気後退という背景もあるだろうけど、それから国分町に元気がなくなっていったような気がする」(国分町の牛タン屋店主)

 確かにその後、箱ヘルの摘発や路地の一方通行化など、逆風とも思える措置がとられ、復興バブルも終了した国分町はもはや“東北一の歓楽街”から陥落寸前となっている。

 関東最大のちょんの間街でも同様のことが起きている。
 
 2005年当時、2009年に予定されていた『横浜開港150周年記念』行事のイメージアップを図るため、目をつけられたのが黄金町のちょんの間だった。

 元々、住民とのトラブルや暴力団がらみの事件も多かったことから、当時の神奈川県警察署長が「バイバイ作戦」と銘打つ大摘発を行い、ちょんの間街を完全に壊滅させたのは有名である。

 そして前回、東京のオリンピック誘致と同様に、2016年オリンピックは福岡県も開催地に立候補していた。そのために行われたのは、県内にある未届けの店舗型風俗店の摘発だった。

 南福岡や雑餉隈(ざっしょのくま)、久留米の六ツ門や文化街他にあった箱ヘルやピンサロのほとんどが摘発された。かろうじて中洲地域のみで営業許可が降り、現在に至っているが、同時に「ファッションヘルス」という名称の使用が禁じられ、福岡では「メンズスパ」と名称を変えさせられている。

「つまり、『ファッションヘルスは撲滅した』という意味なんでしょう。中洲だけでも許可されたのはラッキーでしたよ。でも、誘致に失敗したくせに、ヘルスの復活は許してもらえないのが納得いかんですね」(風俗店関係者)

 こう考えると、2020年にもし東京オリンピックが実現するなら、風俗業界にとっては、“経済効果”を期待している場合でなく逆に死活問題。それでなくとも、国民の約半数しか開催に賛成しない関心度の低さは、誘致活動だけでも150億円(2016年の誘致活動)と言われる税金を投入してまで行う必要があるのか疑問は多い。少なくとも東京である必要はあるのか、結果は来年9月に発表される。 
(写真・文=松本雷太/著書『風俗体験ルポ やってみたら、こうだった<激安風俗>編』宝島社)

【ニッポンの裏風俗 バックナンバー】
第1回 昭和初期にトリップしたかのような街並み、大阪・飛田新地
第2回 顔見せが無くても人気の新地…大阪五大新地
第3回 政治に翻弄された沖縄風俗
第4回 四国裏風俗ルポ 香川・徳島・高知
第5回 四国裏風俗ルポ・松山
第6回 生駒新地
第7回 全国のポン引き地帯
第8回 本サロ、本ヘル
第9回 温泉コンパニオン
第10回 お手頃料金で遊べる温泉風俗
第11回 連れ出しスナック
第12回 アングラな風俗街として認知されてきた青線
第13回 アジアン風俗~二極分化する中国エステ~
第14回 一発屋旅館
第15回 立ちんぼ

men's Pick Up

オリジナルコンテンツ関連トピック