※イメージ画像:『野爆DVD in DVD』
野生爆弾/よしもとアール・アンド・シー
7月12日に放送された『アメトーーク!』(テレビ朝日系)に出演した野生爆弾・川島邦裕のブログが炎上した。理由は、番組内で思わぬハプニングを起こした川島が、その後、すっかり意気消沈してすねた態度を取ったため。放映後、川島のブログには、「つまらない」「お前のせいで番組が面白くなくなった」「テレビ出るな」「芸風かなんか知らんが不快」と辛らつなコメント相次いだというわけだ。不運とも言えるハプニングだったが、その後、何も挽回できなかった川島に弁解の余地はないだろう。むしろそのハプニングを逆手にとって、さらに大暴れするくらいの方が、川島らしいという印象で好感が持てたかもしれない。
コントなどから伺える川島のセンスは、まさに独特の世界観というやつで、万人受けするものではない。そもそもそういった感性の持ち主なのだから、ハプニングの後に萎縮してしまう必要はなかっただろう。若手を代表するアート系芸人として、その地位を確立しているのだから、存分に個性を発揮する方が得策だった。
近年、増加傾向のあるアート系芸人という人々。そもそも芸人を芸術家と捉えても何ら不思議はないが、その中でも特に個性の強い人々がアート系の芸人と呼ばれている。古くは、岡本太郎からも絶賛されたジミー大西などがその典型的な例といえる。現役の若手でいえば、鳥居みゆきやピースの又吉直樹などが挙げられるだろう。
ピースの又吉は、バラエティなどでよく語られるように太宰治への偏愛は凄まじく、玄人はだしだ。近代日本文学全般に詳しく、自身も随筆集、自由律俳1
句集(せきしろ氏との共著)などの著作や雑誌でのコラム連載も多数持つ。また、鳥居みゆきは、元々中毒性のあるライブ作りには定評がある芸人だったが、作家としてもその才能を開花させている。2009年に発表された短編小説集『夜にはずっと深い夜を』(幻冬舎)は「壊れゆく女たちの孤独」が独特の文体で表現されていると絶賛された。今月2冊目となる小説集『余った傘はありません』が出版されたばかりだ。
ここ最近、アート系芸人として注目されている存在といえば、やはり鉄拳だろう。スケッチブックに自筆のイラストで「こんな○○は××だ」という“フリップ芸(めくり芸)”を展開してきた鉄拳だが、一世を風靡した時代はとうの昔、ここ数年は売れっ子とは言い難い状態だった。しかし、ここに来て、類いまれな画力とYouTubeなどの恩恵にあずかり、一枚イラストから動画の世界にスライドすることに成功した。温かみのある画によるどこか懐かしいパラパラ漫画は、鉄拳の芸人らしからぬ朴とつとした性格も重なり、スマホのプロモーションやミュージシャンのPVなどに起用されるなど、高評価を獲得している。プロのアニメーターからや言語の壁を超え海外からの評価も高く、イラスト制作期間という問題さえクリアーできれば、芸人としてではなく、“アーティスト”として世界で活動することも可能だろう。
上記以外にも、絵本などを手掛けネット上で「完全に描き込みキチ○イ」と最大級の賛辞を得たキングコング西野亮廣や、骨太のイラストで知られる銀シャリの鰻和弘は個展を開き、イラスト7枚を10万円で売れたなど、思わぬ副産物を生むこともある。さらに今や芸人から潔く身を引き、俳優や画家として活動している片岡鶴太郎にいたっては、青森大学で芸術論を担当したり(年に1、2回の講義)、奈良県當麻寺中之坊に天井画を奉納するまでとなっている。
そしてそんな片岡のように、芸人として世に出ながら、晩年になってからは完全に当時の面影を感じさせない人々は多い。そしてそのほとんどが俳優という道を選んでいる。たとえば、今は亡き、藤田まことや坂上二郎などがその代表格。現役で言えば伊東四郎や竹中直人といった名前が挙げられる。そんな先人たちの足跡もあってか、今活躍している芸人の中には、「実は俳優志望です」や「もともと俳優志望でした」という輩が意外と多い。有名どころでいえば、雨上がり決死隊の宮迫博之やネプチューンの原田泰造、ダチョウ倶楽部の上島竜兵、出川哲郎や宮川大輔、ジャングルポケットの斉藤慎二など、俳優を希望しながら芸人になった人々というのは例を挙げだしたらキリがない。
とはいえ、芸人から俳優に上手にスライドしていくのには才能と覚悟、それに運が絶対的に必要。安易に、「とりあえず有名になれそうだから」という理由で芸人を目指し、その後まんまと俳優に転身しようなどと考えていては、そもそも芸人の世界で成功するのすら難しいに決まっている。そして、これは前述したアート系芸人たち全般にも言えることだ。もし隠れた才能をさらに輝かせたいのなら、やはり片岡のような潔さが必要だろう。それでもやはり芸人というものにこだわるのなら、ビートたけしほどの多彩で特別な才能が必要なのは言うまでもない。そしてその見極めは本人たちにしかできないものだ。自信があるのなら、二足でも三足でもわらじを履いてみればいい。きっと多くの芸人が辛酸を舐めることだろう。ただ、これまで述べたように、今の芸人界というのが、あらゆる才能を密かに輝かせているのは間違いない。それはまるで前衛芸術家の集まりのようでもある。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)