スレンダー体型や、「ハイジニーナ」と呼ばれる、エステティックサロンやブラジリアンワックス等で陰毛を処理したパイパン女性が主流となりつつある現代、こんなにも豊満な肉体美や、生え繁った陰毛美を描いた作品があったとは!
『ドミナの園』(著:春川ナミオ/ポット出版)は、まさに「大人の絵本」と呼ぶに相応しい一冊であった。構成は、見開きの半分が物語、もう半分が挿絵。描かれているのは、女性の巨尻と、そこに顔を埋めることで幸せを見出す男たちの姿だ。
著者は、女性の豊満な巨尻に敷かれる男性の悦びを一貫して描いてきた春川ナミオ氏(1947年生まれ。大阪府出身)。学生時代から、カストリ雑誌の草分け「奇譚クラブ」の読者投稿欄に作品を寄稿し、SMファンの熱い支持を得た。カストリ雑誌とは、太平洋戦争終結直後の日本で、出版自由化を機に発行された、性的興奮を煽る挿絵や写真が掲載されている雑誌のこと。それらの中でもSMに特化した「奇譚クラブ」は、1955年に発行禁止処分を受けたことも。春川氏の描く女性は、とにかくグラマラスであることが特徴的だ。海外のマニア層からの評価も高く、今ではこの分野の第一人者である。
春川氏の集大成とも言える『ドミナの園』であるが、巨尻と顔面騎乗だけでストーリーが成り立っているという点が、実に興味深い。物語のヒロインは、身長190センチ・体重120キロ・バスト120センチの、バレーボール元日本代表の巨美女・加奈。小男が経営する化粧品会社のCMモデルに起用されたところから物語は始まる。男たちを文字通り尻に敷き、奴隷として生きる悦びに目覚めさせ、瞬く間に社長の座に駆け上がっていく。
ヒロインの加奈のみならず、作品に登場する女性たちは全て巨美女! 痩せている女など、ただの一人も出てこない。といっても、醜く肥えた女性ではなく、豊満であるがゆえに美しい女たちだ。「スリムすぎる現代女性よりも、実はむっちり体型の女性が好み」という嗜好の男性にはたまらないだろう。
品質管理部長の羽田由美も、かつての上司に跨る
化粧品会社の社長として収益をアップさせた加奈は、女性向けのビューティーサロンを立ち上げる。よくある話のように聞こえるかもしれないが、加奈が銘打ったのは「サディスティック・ビューティー」。世間一般の、「美しく痩せる」という概念を覆し、奴隷男性に奉仕させることで心身共に豊かになろうという趣旨である。「仕事のストレスで太っちゃって困っている」という女性客に対しても、「太っていません。美しさが増したのです」と諭して、正座した奴隷男性を取り付けたリクライニングシートでの舌奉仕を薦める。
最近は、潔癖症の現代人が増えてきているのか、「セックスは好きだが、クンニリングスに抵抗がある」という男性も少なくないが、この作品に登場する奴隷男性たちは皆、嬉々として舌奉仕を行なう。局部だけでなく、巨尻がシンボルとなっている作品だけにアヌスも舐める。さらには、女性たちがオナラを嗅がせたり、飲尿さらには食糞といったシーンが登場する。だが、決して下劣ではない。「オナラをあげるわ」「ほら、お食べ」など、品よく描かれており、排泄後の詳細な記述にはいっさい及んでいない。過激さだけを売りにしたスカトロジー作品とは一線を画している。
そして、なんといっても女尊男卑の匂いがしないのが素晴らしい。登場する奴隷男性たちは、奉仕を強制されているのではなく、自ら巨尻に敷かれることを望んでいるのだ。女性たちも、巨尻への奉仕を強制することはない。奴隷男性たちはA~Dに格付けされているのだが、「B級奴隷には無理なのよね」と、責めをセーブするシーンもあり、実に微笑ましい。
ヒロイン加奈は、レンタル奴隷派遣業や、男性奴隷を受け口とすることで立ったまま用が足せる婦人トイレ、腰掛け便器など奇想天外な新規ビジネスを次々と展開。最終的には、奴隷アトラクションが集まる屋外アミューズメント施設を立ち上げ、女性たちに、「男性に奉仕させる悦び」を広めていく。次々とS女として輝きはじめる女性たち……。
巨尻に密着した創作を意欲的に続ける春川氏の「春川ナミオ展・ドミナの園」は、銀座ヴァニラ画廊にて、7/30(月)~8/11(土)。巨尻愛好家、顔面騎乗愛好家には見逃せない個展となるだろう。
(文=菊池 美佳子)