巨大掲示板「2ちゃんねる」が、一部のまとめブログに対してスレッドの転載禁止を言い渡す文章をサイト上に掲載し、ネット上で大きな話題になっている。「2ちゃんねるまとめブログ」とは、ユーザーが書き込んだスレッド内のコメントを編集し、記事として掲載するサイト。近年は企業サイトを超えるほどのアクセス数を誇り、転載記事で読者を集めてアフィリエイト広告によって報酬を稼いでいる。
今回、転載禁止を通知されたのは、まとめブログの中でも人気の「やらおん!」「ハムスター速報」「はちま起稿」「オレ的ゲーム速報@刃」「【2ch】ニュー速VIPブログ(`・ω・´)」の5サイト。通知文には「第3者に迷惑をかけ謝罪しない人物に2chの著作物を使われることは、不利益が大きいため、下記のURLにおける2chの著作物の利用を禁止します。また、本人及び関係者による類似サイトへの著作物の利用も同様に禁止します」と理由が記されている。さらに「発言の捏造、転載元が明記されていない著作物の利用に関しても、なんらかの措置をとる可能性があります」と警告している。
この通知は、2ちゃんねる元管理人・西村博之氏の主導によって行われたようだ。
事の発端は意外なところにさかのぼる。今年1月、ウェブマガジン「東京黎明ノート」に「週刊少年サンデー」(小学館)編集者のインタビューが掲載され(※1)、WEB作家の起用や全話無料公開などを特徴としたコミックサイトの展望が語られた。これに対する2ちゃんねるの反応を「やらおん!」が5月末に記事化したが、話し手の発言を曲解した記事タイトル(※元スレッドのタイトルと同じ)で掲載し、ネット上で爆発的に拡散された。これを受けて、発言した編集者が法的措置を取ることを示唆。「やらおん!」は直後に記事を削除したが、謝罪や事情説明の文章は掲載されなかった。(※1)掲載時期に誤りがありましたので修正させていただきました
今月4日、2ちゃんねるのスレッドに現れた西村氏は、この騒動で謝罪が行われなかったことをユーザーの情報提供によって確認。直後に「やらおん!」に転載を禁止する通知文が掲載された。さらに、恣意的な記事作成やデマの拡散などをしているとユーザーから指摘された他のサイトも追加。西村氏は「被害者が被害を訴えてるソースがあって、謝罪なりの対応が無いってのが措置の理由ですね」と理由を説明している。
元々は、西村氏はまとめブログを擁護するスタンスだった。まとめブログは、転載記事で多額のアフィリエイト収入を得ているというウワサや、特定のメーカーの商品を持ちあげて報酬を得ているという説があり、一部のネットユーザーからは忌み嫌われていた。2ちゃんねるの規約にも「2ちゃんねるのデータ自体を利用して対価を取る行為はご遠慮下さい」と書かれており、サイトとしてはアフィリエイトで稼いでいるまとめブログに否定的だった。しかし、西村氏個人は2ちゃんねるとまとめブログが何らかの形で協力していければいいと考えていたフシがあるようだ。
ところが、最近はまとめブログが乱立したせいで競争が激化し、真偽の十分な検証のないまま速報的にスレッドを記事化して、問題が発生するケースが多発するようになった。
昨年10月には「福島の米農家がJAあまくさ(熊本県)の米袋を使って産地偽装している」というデマがまとめブログ経由で拡散され、JA熊本が抗議文をサイト上に掲載した。今年3月には、「日本ユニセフ協会が震災義援金を全額使わずにアフリカ支援などに回す」というデマがまとめブログ経由で流れたが、実際は余剰金が発生した場合のみ多用途に転用するというのが真相だった。さらに、ゲイ漫画家・田亀源五郎氏の作品がアニメ化されるというウソ情報が掲載されたり、別人のプリクラを声優・荒川美穂さんと元彼氏のツーショットプリクラだとした記事が拡散されるなど、まとめブログの記事によって当事者が迷惑をこうむる騒動が頻発している。
この状況によって擁護しきれなくなった西村氏が、謝罪をせずに記事を削除しただけで問題を放置したサイトに対して転載禁止措置を断行したようだ。2ちゃんねるの書き込みは、運営側に著作権が帰属するよう規定されており、もし運営側が本気で法的措置をとれば、まとめブログ側は厳しい立場に追い込まれるだろう。
まとめブログの横暴に辟易していたユーザーからは賞賛されている今回の通知だが、なぜ西村氏が通知を実行する権利を持っているのか、という疑問も浮かぶ。
西村氏はシンガポールの企業に2ちゃんねるを譲渡し、ほぼ無関係になったと主張していた。しかし、覚せい剤売買の書き込みを放置したことによる家宅捜査などによって、シンガポールの企業がペーパーカンパニーで実質的な運営は日本で行われていることが分かった。さらに、警察の削除要請に応じて西村氏が書き込みを削除したことを明かしたり、同サイトの書き込みを基にした書籍「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」(新潮社)の印税が彼にも渡っていたことが判明。今も2ちゃんねるの運営に携わっていることを示す証拠が積み上がりつつある。警察も「実質的な最終責任者は現在も西村氏では」との見方で捜査を進めているといわれる。
2ちゃんねる捜査を進める警察の最終目標が「管理責任者の逮捕」といわれる中で、西村氏がまとめブログへの転載禁止通知という、まるで管理人のような行動を起こしたのは、かなり危険な行為といえるだろう。まとめブログ界隈への衝撃という枠を超えた何かが、背後で動いているのかもしれない。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)
もう作れないな…