「ユーロが崩壊した!」
2月6日、辻仁成がフランスからこんなツイートをし、朝っぱらからTwitterのタイムラインを賑わせた。
経緯はこうだ。同日の日本時間05時59分に辻がこんなツイートを投下した。
「ちょっと、全て報道内容理解出来ませんが、フランス国営放送、民放ともにフランスの各局が、ユーロ離脱、ユーロ崩壊を報じています。ユーロは今日から一ユーロ、一フランとなるとのこと。でも、多分、半年間は両替出来る、と思います。情報収集していますが、日本のメディアで確認されたし!」
「ユーロ崩壊」については、ギリシャの債務不履行やユーロからの離脱が確実化となり、ギリシャ国債を大量に保有しているフランスの大手銀行の株価が暴落するなど、現実味を増しているのは事実。
だが、そんな世界的な大ニュースの第一報を、まさか辻仁成から知らされるとは! フォロワーもびっくりである。
「フランス在住の作家・辻仁成氏が「ユーロが終わった。フランに戻るとテレビで言ってる!」とツイートなさってますが、マジっすか」など、Twitter上で大騒ぎとなり、一時期トレンドワードにも「辻仁成」があがったほどだ。
たしかにフランス在住の辻からのツイート、そしてその報道番組を今、目の前で見ている……と書かれたら、現実に起こっていることなのだと勘違いしてもおかしくはない。地震関連のニュースでもそうだが、誰かが「揺れた!」とつぶやくほうが地震速報よりも迅速に世の中に伝わる。それがTwitterというものだ。
先に種明かしをすれば、辻が観たというテレビは、報道ではなく「もしもユーロが崩壊したら」というシミュレーション番組だったらしい。つまり「ユーロ崩壊」は、まだ起きていなかったのである。
しかし、すでに時遅し。RT(リツイート)などで辻のこれらのツイートはあっという間に広がっていた。彼は、真偽を確かめる前に騒いでTwitterに投稿しただけでなく、「このソースを確認すべく、信頼できる人間としてこのふたりを選んだ」と、NHKアナウンサー堀潤とジャーナリスト津田大介に次のような緊迫した文章を投げかけていた。
「ユーロ崩壊のニュース、まだ、日本に流れてませんか? こちらでは各局、報道されています! ユーロが終わります!!!」
しかしそこはNHKアナウンサー。堀の対応は完璧だった。「辻さん! 仰っていたユーロに関する情報はこちらには現在ありません。為替の動きを見ていますと特に大きな変動がみられず通常の取引範囲内かと。もし何か情報が入りましたらまたご連絡します」。まずは「そのような報道は入っていない」と冷静に対処。
一方、津田はこの辻のツイートに対して簡潔に「ユーロ終了のお知らせってマジ?」と返信したようだが、この「マジ?」がフォロワーたちを混乱させる原因のひとつとなった。ここで津田が堀のように「確認します」などと言葉を選んでいたら、辻誤爆に巻き込まれずに済んだかもしれない。津田自身ものちに述べているが、検証する意味を込めて「マジ?」と反応したようだが、津田がからんだことにより「ユーロ崩壊情報」にリアル感が増し、「デマ拡散」にひと役買うハメになってしまった。とんだとばっちりである。
辻はカフェでその「報道(本当はシミュレーション番組)」を観たあと、慌てて自宅に戻りテレビをつけたが、「ユーロ崩壊については一切触れずにバラエティや映画を放映しているのはなぜだ!」と懲りずにツイート。当たり前である。まだ崩壊していないのだから。
そこでやっと、さきほどカフェで観たテレビは「シミュレーション番組」であることに気づく辻。
その後は、騒ぎに巻き込んだ津田や堀、そしてフォロワーにひたすら平謝り。そして次のようなつぶやきもぽつりとツイート。
「朝から、津田さんと堀さんに確認求めて、恥じかいた。それくらい生々しい報道で、みんな大騒ぎでした。このニュース番組、もう見ない!」
辻誤爆に巻き込まれた堀と津田からは、ドンマイ@返信が飛び交った。
堀「まったくフランスのテレビ局めー!!笑。ではでは、おやすみなさい」
津田「いえいえ、カフェとかでうっすら見てたら確かに誤解しますよね。」
フォロワーたちもまた、辻に優しかった。
「今日まだ一回も笑ってないと思ったが、辻仁成の例のあれで、起き抜けに笑ってたことを思い出した」
「辻仁成の呟きを一呼吸置かずにリツイートできる大胆さ、プライスレス」
今朝の一連の騒ぎでわかったのは、辻が各所で愛されていること、そして報道内容をすべて理解できるほどフランス語にはまだ長けていないこと、そして素直な性格であろうこと。この3つだ。辻が誤爆直後に猛省している様子も、ほっこりとした気分にしてくれた。
先日『あの大物美人女優のつぶやきは、新たなる「Twitter事件」に発展するか』という記事でも触れた妻の中山美穂と比べ、Twitterにはあまり感情的な書き殴りをしない夫の辻仁成。さすが物書きだけありクールな面を持ちあわせているのだなと思っていたが……。やはり夫婦揃って『冷静と情熱のあいだに』いる人たちであったことを改めて実感した、そんな月曜の朝だった。
(文=島みるを)
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