『プチャヘンザ!』/tengal6、『鼓動の秘密』/東京女子流*より
「アイドル戦国時代」なんて本物の戦国時代のように1世紀ぐらいやっていればいいのだ。そんな憎まれ口を叩いているうちに2011年も終わろうとしている。
今年のアイドルのライヴでもっとも印象に残っているのは、12月18日に吉祥寺CLUB SEATAで開催されたChu!☆Lipsの解散ライヴ「Chu!☆Lips FINAL 第1回チキチキ チュップス&チュッパー2464日めのゆあーしょっく!?」だった。なにしろライヴの冒頭で持ち曲の約40曲を全部歌うと予告し、ステージは最終的に約6時間にも及んだ。あまりにも長時間なので、Chu!☆Lipsのこれまでの衣装やポスターで飾られた会場では、特別に食事も売られたほどだ。
フロアを見ると山車のような装置があるので、ヲタによる騎馬がおなじみの「100万馬力のお年頃」で使うのだろうと考えていたら、なっちんのソロ曲で移動式ステージとして使用されていて度肝を抜かれた。このヲタによる予想外の演出。Chu!☆Lipsはもちろん、彼女たちのファンである「チュッパー」も最後まで彼ららしい輝きを放っていた。ヲタをステージに上げて踊らせるという馬鹿馬鹿しいコーナーも用意されていたのだが、ヲタがフロアにダイヴして、仲間から長時間リフトされていたのも非常にエモーショナルな光景だった。
アンコールの「とびっきり!恋の大ジャンプはK点越え!」では、ヲタによる大量の紙吹雪が舞い散り、私はそれを「浴びたい!」と考えて駆け寄った。私はあの瞬間、まばたきすら許されない輝きの中にいた。
Chu!☆Lipsは、ステージ上で最後まで解散の理由について一切触れなかった。それゆえに、なっちんの「本当はもっと売れて皆をもっと大きな会場に連れていってあげたかった、それだけが心残りです」という主旨の言葉が深く胸に刺さった。
「アイドル戦国時代」というバズワードがもてはやされる以前は、地下アイドル、今で言うところのライヴアイドルがその時代を支えていた。そのシーンを支えていたのが「アイドルステーション」であり、その中心的存在がChu!☆Lipsであった。「アイドル戦国時代」以前に何もなかったかのような言説は「偽史」に過ぎない。そのような歴史観に対しては、本連載は今後も一貫して悪態をついていきたい。
そのようなことをくどくどと述べたうえで、昨年に続き今年も本連載のベスト10を挙げたい。
1位:BiS「My Ixxx」(バウンディ)
「暴走するアイドル・BiSが圧倒的なサウンド・プロダクションとともに届ける傑作『My Ixxx』!」で紹介。この連載で紹介している間に、4人のオリジナル・メンバーのうち、これまで2人の脱退が発表されてしまった。その一方で、松隈ケンタやSchtein&Longerらによるサウンドは揺るぎないクオリティを誇る。異端中の異端であるBiSを、確信をもって2011年の1位として推挙する。
2位:tengal6「プチャヘンザ!」(Independent Label Council Japan)
「『アイドルとしてのヒップホップ』を突き詰めたパーティー・チューン! tengal6『プチャヘンザ!』」で紹介。tofubeatsが初めてアイドルの作詞、作曲、編曲、サウンド・プロデュース、ミックスまで手掛け、tengal6の魅力を引き出した傑作。12月22日のMaltine Records主催のイベント「プチャヘンザ!」での両者の共演も熱かった。
3位:Tomato n’Pine「ジングルガール上位時代」(SMR)
このシングルの前作「なないろ☆ナミダ」は「『アイドルっぽい音』から大胆に逸脱していくTomato n’Pine『なないろ☆ナミダ』」で紹介したが、続くこの楽曲も素晴らしかった。ブリティッシュ・ポップス風味の洒落た華やかなサウンドがもたらす昂揚感。Tomato n’Pineの作品群は、どれを挙げたらいいのか迷うほどの高水準ばかりだ。
4位:東京女子流*「鼓動の秘密」(avex trax)
「ダウナー映像をも使いアグレッシヴな美意識を打ち出す! アイドル戦国時代を彩り始めた『東京女子流*』」で紹介。シングル「Liar / W.M.A.D」も良かったが、このアルバムに収録されているジャジーな「孤独の果て~月が泣いている~」の収録を決定打として本作とする。
5位:エレクトリックリボン「レプリカプリコ」(インディーズ)
本連載は全国流通盤しか扱わないルールなので紹介できなかったが、年間ベスト10には入れたい。完全にインディペンデントな活動をするエレクトリックリボンが、iRiaの脱退前にリリースしたCD-R。ソングライター、トラックメイカーとしてのasCaの実力を雄弁に物語る、甘く切ない楽曲だ。asCaとNAOMiが残された現在は活動休止中だが、今後の作品を強く期待したい。
6位:さくら学院「さくら学院 2010年度 ~message~」(トイズファクトリー)
「学校生活と部活動をテーマに音楽ジャンルを網羅する! 成長期限定アイドルユニット さくら学院」で紹介。このアルバムの後に「ド・キ・ド・キ☆モーニング」のDVD付きタオルが発売され、さくら学院はユニバーサルJへ移籍するなど、素早い展開を見せている。
7位:Saori@destiny「Domestic domain」(D-TOPIA UNIVERSE)
「まるでシャーマン!! ファンに”熱”をもたらすSaori@destinyの魔力」で紹介。トライバル路線にソウルの要素もミックス。今年はさらにAira Mitsukiとのユニット「Aira Mitsuki×Saori@destiny」で「X~PARK OF THE SAFARI」もリリースした。
8位:LinQ「ハジメマシテ」(インディーズ)
「福岡の地元産業密着型アイドルは全国で成功できるか!? LinQ『ハジメマシテ』」で紹介。福岡のアイドルながら、11月11日に新宿ロフトで開催されたワンマンライヴの盛り上がりは鮮烈だった。
9位:Chu!☆Lips「クールだぞぃ!」(ビーイング)
ラスト・シングル「ザ・ゴールデン・チュップス」の収録曲。冒頭からファズギターが鳴り響くサイケデリックなGS風の歌謡ロックで、Chu!☆Lipsを支えたソングライター・山本重夫の多芸さを実感させる楽曲。
10位:9nine「夏 wanna say love U」(SME)
正直なところ、ビクター時代のGravity Sessionによるブルー・アイド・ソウル・アイドル歌謡路線を支持してきたので、ソニー移籍後のこのK-POP路線には唖然とした。しかし抗いがたい完成度と魅力があり、個人的にはコード進行自体が好み。
次点として、クラシックを21世紀に鮮やかに蘇生させた渡り廊下走り隊7「バレンタイン・キッス」、インディペンデントなCD-Rながら高いサウンド・プロダクションのちぇりぃ☆えんじぇる「ちぇりぃなキ・モ・チ☆ / サマーマーメイド」を挙げたい。
2012年に注目したいのはタワーレコードによるT-Palette Records。8位に挙げたLinQを「カロリーなんて / きもち / 手をつないで」で全国流通させた結果、オリコンのウィークリーチャートで22位にした嶺脇育夫社長の手腕には、ある種の畏怖の念すら抱いた。2月に発売されるNegiccoのベスト盤が今から楽しみだ。
また、まだ全国流通の音源をリリースしていないアイドルでは、MOE-K-MCZの楽曲をカヴァーしている中学生ヒップホップ・ユニットのライムベリー、そしてプロデューサーの皮茶パパがアシッドなテイストを施しているKGY40Jr.のCDリリースに期待したい。
さて、2011年は東日本大震災や福島第一原子力発電所の事故で、アイドルが様々な面で活動しにくい年でもあった。多くのアイドルがライヴ活動を自粛し、プロモーション活動もできない状況に陥るなか、AKB48が日本赤十字社に5億円を寄付し、12月現在もまだ被災地で継続的な訪問ライヴをしていることは特記したい。スタンドプレイだという揶揄もあるだろうが、仮に偽善だとしても何もしないよりはマシだ。
潜在的な不安を抱えた社会の中で、アイドルというエンターテインメントの送り手はこれまで以上の覚悟が必要だとも感じた年だった。
(文=宗像明将)
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