苦節10年、”あやしい”?ギャグ漫画家・根本尚の初単行本が遂に発売!

 札幌在住のギャグ漫画家・根本尚(ねもと・しょう)。「週刊少年チャンピオン(以下、「チャンピオン」)」(秋田書店)誌上で連載していた『現代怪奇絵巻』が最終回を迎えた際には、曽田正人氏が公式サイトの日記(現在は移転しており閲覧不可)で終了を惜しんだ、知る人ぞ知る職人気質のショートギャグ作家である。現在は「ミステリーボニータ(以下、「ボニータ」)」(秋田書店)誌上で、『恐怖博士の研究室』と『衆議院議員日本一』を連載している。

 そんな根本氏は、ブログ「札幌の六畳一間」での文体などを見ている限り、クールで気難しい方であるように思われているのかもしれないが、しかしさにあらず、氏は心優しいツンデレ青年なのである。日々の生活費を極限まで切り詰めている様子をブログに綴りながら、飛行機で上京しなければならない創作同人誌即売会「コミティア」に毎回参加し、たとえ表紙がカラーで100P超えの作品であっても全ての同人誌を100円で販売し──当然完売しても交通費を考えれば大幅赤字である──、さらには新作同人誌が完成するたび、コミティアに来られない読者に無料で進呈しているのだ(送料も氏が負担!)。

 昨年5月のコミティアでは、そのような読者への感謝を忘れない真摯な姿勢が目に留まったのか、氏にブログのタイトルでもある『札幌の六畳一間』というタイトルのエッセイ漫画を依頼する、ある月刊誌の編集者が現れた。氏はリクエスト通りにネームを完成させた──のだが、なんと編集長がそのネームを見て、「根本尚という作家は誰も知らん」の一言でボツにされてしまった。作家から持ち込んだのであればまだしも、普通の漫画家であれば愚痴のひとつもこぼしたくなる話である。ところが記者がコミティアにて、オフレコでその雑誌名を訊ねても、氏は笑顔で「絶対に教えません」と首を振るのみ。根本、お前、男だ! ちなみに、記者がなぜ事の顛末を知っているのかといえば、そのボツネームが同人誌『札幌の六畳一間』となったからである。もちろん頒布価格は、100円……。

 そんな氏の連載は単行本にまとまったことがない。ファンからの問い合わせも多いようで、記者も直接訊ねたこともあるのだが、「ショートギャグや時事ネタは、単行本でまとめて読んでも面白くないですよ」とニヒルな微笑みを浮かべるばかり。まるで「出ないのが当然」と言わんばかりの態度であったのだが、これもタダのツンであったことが判明している。

 冒頭に書影があるように、2001年8月号から連載中の『恐怖博士の研究室』が、遂に10年目にして初単行本化。ブログでその発売自体を告げる記事の文体は、同じくボニータで『傀儡師リン』を連載されていた和田慎二氏の訃報もあってか、ただ事実を告げるためといった内容であったものの、コメント欄で『衆議院議員日本一』も単行本化してほしい、という内容のコメントに対して、氏は「日本一の単行本、欲しいです。この6年間、「毎日」そう思ってます。」と告白していたのだ。まんべくんのTwitterも中止となった今、この北の大地が誇る萌えキャラをより多くの方に知っていただきたいと、インタビューを申し込んだ。

──連載10年目にして初の単行本。おめでとうございます。

根本尚(以下、根本)「ありがとうございます」

──そもそもどのようなきっかけで、ボニータのような少女誌での連載が始まったのでしょうか?

根本「ボニータには投稿したことがあったんです。昔、ボニータは隔月刊行だったんですけど、月刊化のリニューアルがあって、それと同時に連載が始まりました」

──投稿がきっかけだったのですね。少年誌などよりも自らの作風が目立つとお考えになって、意図的にボニータを選ばれたのでしょうか?

根本「少女誌に男は目立つんじゃないかなと思って。じっさい、私がボニータの歴史上、2人目の男の投稿者だったそうです」

──秋田サンデーコミックスを思わせる書影が素晴らしいです。このデザインは先生のアイディアですか?

根本「私のアイデアではなく、勝手になってました。サンデーコミックスで単行本を出してくれ、とは前々から言ってたんですよ。それが影響したんでしょう」

──しかし「あやしい1コマ漫画屋がやってきた!」という惹句は驚きました(笑)。これは一体どのようにして……。

根本「これも勝手についてましたね。秋田書店には『あやしい取材』とか『あやしい借金』とか『あやしいシリーズ』という本があって、それと同じ形で出す、との話は聞いてましたけど」

──なるほど。その”あやしい”でしたか! しかしこう言っては失礼ですが、まさかの単行本化。びっくりしました。突然決まったという感じだったのでしょうか?

根本「それまでも何回か話はありましたね。文庫で出すとか」

──初めて単行本が出ると聞いたときの率直な感想は?

根本「単行本作業に時間がさかれて、連載のほうの質が落ちたらどうしよう……と心配しました」

──そこでもツンですか! 嬉しくなかったわけではありませんよね……?

根本「そりゃまあ、嬉しかったですよ」

──無理やり言わせたようですみません……。では最後に、単行本の見どころと、今後の抱負についてお話しいただけますでしょうか?

根本「単行本の見どころは、態度の悪い級友やおばさんの表情ですね。作者の私でもムカつきます。今後に関しては、単行本が売れて、他にも本が出るようになって欲しいというのが本音です。今回単行本になったのは、私が秋田書店で描いた原稿の数%ですから。残りの90%超も本にならんかなと。あとは同人誌活動ですね。同人誌で『怪奇探偵』なる推理モノを描いてるんですけど、その出来に満足していないんですよ。もっと怪奇要素の強いミステリを描きたいですね。ホラーにしか見えないのに、ちゃんと推理モノになっている、というのが理想です」

 氏もインタビューで述べていたように、単行本がヒットして『恐怖博士の研究室』の続刊や『現代怪奇絵巻』や『衆議院議員日本一』が単行本にまとまって発行されることや、『札幌の六畳一間』や『怪奇探偵』シリーズが商業誌に掲載されるような展開を期待したい、のだけれど、ひとつ心配なことが……。

 実は、かつて連載していた「チャンピオン」誌上にて、「ボニータ」11月号の広告ページが掲載され、そこで「週チャン読者の皆様、お忘れでしょうが…。」というアオリと書影つきで『恐怖博士の研究室』の発売もアナウンスされていたのだ。もちろん、それだけなら何ら問題ない、というよりプラスの話だが、そこには「祝 最初で最後のコミックス 10月7日(金) 堂々発売!」という惹句が添えられていたのである。

 ただ、「チャンピオン」は兄弟誌と言える「月刊チャンピオン」や「ヤングチャンピオン」の広告ページもほとんど掲載されないことで知られている。それを考えれば、この広告自体が秋田書店の壮大な”ツン”であると言えはしないだろうか? そうなんですよね、秋田さん……!?

 根本ファンの期待は裏切らず、予想を裏切る強烈なデレを心より期待したい。
(文=下原直春)

■札幌の六畳一間http://hennahon.at.webry.info/

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