アダルト市場ではニッチな性癖をターゲットにした作品も数多く発売されているが、その極北ともいえるDVD『Doll Girls(ドォル・ガァルズ)』(三和出版)がマニアの間で話題となっている。
このDVDでは2人の女性が自慰や医療プレイ、SM、レズ行為などを繰り広げるが、どちらもマスクと全身タイツを身につけており、最後まで肌は一切露出しない。ゴスロリ調の世界の中で無言のままハードプレイが展開され、音楽と快感によってわずかに漏れる吐息、秘部の衣ずれの音だけが響く。
アニメ調のマスク(アニ顔)をかぶった女性が出演するアダルト作品は今までも発売されてきたが、こちらはドール系のマスクをかぶっていることが大きな特徴。アニメキャラを強引に3次元にした既存のマスク系作品と違い、「生きている人形」にテーマを絞ったアダルト作品といえる。
こだわりにこだわった作品を制作した三和出版の二木寸志氏に話を聞いた。
──ドール系マスクというのは非常に珍しいですね。
D4Cプロジェクト(http://d4cproject.x.fc2.com/page1.html)というマスク企画者集団に協力していただいて作りました。この手のマスクにありがちなアニ顔のものに比べると、かなり高価なマスクになっています。マニアが見れば、すぐに違いが分かってもらえるのではないでしょうか。マスク自体もそうですが、目は特にこだわった部分でもあります。
──こだわりが随所に見える作品ですね。
全身タイツもモデルの身体に合わせた特注品です。マニアの人たちにアドバイザーになってもらったんですが、タイツは安物を使うと一目で分かってしまうので、量販店で売っているような物は絶対に使わないでくれと言われました。
──撮影はどんな様子でしたか?
マスクをモデルの女性に合わせて、窮屈過ぎないちょうどいいフィット感を調整するのが大変でした。調整しても、10分ごとに休憩をとらないと酸欠になってしまうほどの息苦しさだったようで、酸素ボンベを用意して撮影しました。
──かなり過酷な現場ですね。
たまたまモデルさんたちがスーパードルフィー(※ボークス社のドール)とかのコレクターで、自分が人形になれるということでノリノリで撮影してくれました。ドールに興味のある人たちじゃなかったら、あまりにもしんどいので撮影が失敗していたかもしれませんね。
──アダルト作品なのに、最後まで肌の露出が一切ないのは衝撃的でした。
マニアの間でも、大きく分けると「絶対に露出してほしくない」派と「マスクだけ着けて身体は生肌がいい」派に分かれるようなのですが、マニアの世界では一切露出がない方がメジャーなんですよ。今回はメジャーな方に合わせた感じです。
──一般的な感覚だと、女の子の裸を見たいと思いますが……
マニアにしてみたら「身体を露出するなら、マスクなくても変わらないでしょ?」という感覚みたいですね。あくまで『着ぐるみの人形』として存在していてほしいという。ただ、もっと声を出してほしかったという要望や、メーキングを入れてマスクを取った素顔を見せてほしかったという声もありました。
──人形としての被写体を求めながら、声や素顔は見たいというのは何でまた?
マスクを通して少しくぐもった声になるのが、マニアにとってポイントが高いみたいです。素顔を見たいというのは、一応中身が女性なんだというのを確認したい気持ちがあるようですね。極度のマニアになると、中身が女性でも男性でも関係なくなるみたいですけど。
──マニアのストライクゾーンは難しいですね……作品の反響はどうですか?
YouTubeにPR映像が流れてるんですが、日本以上にアメリカ、台湾、ドイツ、フランスなど海外の人たちにがウケがいいみたいですね。海外でもリアル系のフィーメールマスクやアニメ系マスクをかぶった着ぐるみ映像の文化はあるんですが、どちらかというとリアル系のマスクが多いので、ドール系マスクというのは珍しいみたいです。
──海外にもそういうマニアがいるとは初耳です。
kigurumi(着ぐるみ)やdoller(ドーラー)は、もはや世界に通じる言葉になりつつありますよ(笑)。ネットで調べると、マスクをつけて自慰っぽいことをしている映像を自画撮りして、動画サイトにアップしている人達がいますね。日本でも、ワンフェス(ワンダーフェスティバル=日本最大のフィギュア展示即売会)などのイベントに行けば、マスクをかぶってるマニアの人たちがいますよ。
──そのマニアというのは、どんな人たちなんでしょうか?
マニアの人たちは男性が大半だろうと私はみています。なので、女装の亜種といった感じですね。ウワサで聞いた話では、それぞれ女の子のマスクと衣装を付けた状態で合コンみたいなことをして、気に入った相手と別室で絡んだりすることもあるらしいです。もちろん参加者のほとんどは男性同士だと思うのですが、この格好のときはみんな女の子になりきっているので、絡みも成立するんでしょうね。実際に私も取材でマスクの人を目の当たりにしてみて、気持ちはすごくよく分かるようになりました(笑)。マニアの人たちに言わせれば、「中の人など関係ない」という意識もあるのではないでしょうか。
──おお、かなり濃い世界ですね……
今、フェチの世界で一番ディープかも知れないですね。やっぱり、その道を極めてる人たちはすごいですし、こだわりがあって深いです。
マニアの声を取り入れながら制作したこだわりの作品だが、ドールと縁遠い筆者が観賞しても、マスクを被った女の子がかわいく見えてくるから不思議だ。ただヌケればいいという作品ではなく、耽美な世界観を大切にして丁寧に作り込んでいることが魅力になっているのかもしれない。二木氏は、今作が好評であれば「次回は野外撮影や男性ドールを組み込んだ作品にしたい」と意気込んでいる。この独特の世界観に感じるものがあったら、このDVDでドールたちが繰り広げる淫靡なエロスに浸ってみることをオススメします。
エロスの歴史がまた1ページ……