毎年この時期になると決まってテレビで流れるのが帰省ラッシュの渋滞情報と終戦記念の特別番組。特に各局が総力を挙げて制作する終戦記念に関するスペシャルドラマは、戦争の記憶を風化させまいとして、視聴率云々の問題以前に多くの人々の注目を集めてきた。しかし2011年の今年は、8月15日の終戦記念日前後1週間で放送されるスペシャルドラマが日本テレビ系の『犬の消えた日』とフジテレビ系の『最後の絆』の2本のみ。3月に起こった震災の影響もあるのだろうが、ここ数年で最も少ない本数だった今年の終戦記念ドラマ。近い将来にでも、終戦記念ドラマの放送されない夏がやってくるのだろうか。
「2005年の8月15日前後に放送された終戦記念ドラマは、NHK『象列車がやってきた』、日本テレビ系『二十四の瞳』、TBS系『覚悟』、フジテレビ系『実録・小野田少尉 遅すぎた帰還』、テレビ朝日系『零のかなたへ~THE WINDS OF GOD』と、各局それぞれ1本ずつ放送していました。この年は、終戦60年という節目で、各局共に春先から戦争に関するドラマを放送していたのを覚えている人も多いのではないでしょうか。しかし、この年を最後に全国放送のキー局すべてが揃って終戦関連のドラマを8月15日前後に放送するということはなくなってしまいます」(業界関係者)
また別の放送関係者は夏の終戦記念ドラマに関してこんなことを教えてくれた。
「大規模なドラマの撮影には当然それだけ莫大な経費がかかります。しかし、終戦記念などの特別な場合、局は採算を度外視してドラマを制作します。それがメディアとしての役割ですから。震災直後にCMをほとんど流さなかったというのと同じ理屈ですよね。そんなことに構っていては局の信用をなくしてしまいます。ただ、そうは言っても著しい不況下の今ではどこの局もできるだけ経費を抑えたいはずです。今年の終戦記念ドラマが2本だけというのは、NHKを含む全国放送のキー局が、今後は持ち回りで終戦関連のドラマを制作していくという約束をしているのかもしれませんね。昨年はNHKとTBSが制作し、今年は日本テレビとフジテレビでしたから。来年はきっとテレビ朝日とNHKといった感じかもしれません」(放送関係者)
さらに民放局のドラマ制作に携わる関係者はこんなことを指摘する。
「終戦後66年が経って、どこの局もネタが尽きているというのは切迫した問題でしょう。その点、今年のフジテレビが放送した『最後の絆』は、日本軍と米軍に分かれてしまった兄弟の実話という、作り話のような本当の話で非常に感動的でした。しかも主人公の2人が存命で、彼らの話も交えながらのドキュメンタリーテイストは、これまでの終戦記念ドラマとは一線を画す出来映えだったと言えるでしょう。主演を務めた佐藤健と要潤もよかったですよね。ただ、こういったドラマとして最高の素材が今後出てくるかは難しい問題です。少年兵として戦争末期に参戦した場合でも、優に80歳を超える方たちばかりですから。そういった方々の生の声を反映したドラマ作りというのは、ますます難しくなるでしょう。どうしようもない事情ですが、どこの局も終戦記念ドラマにふさわしいネタは躍起になって探しているはずです」(ドラマ制作関係者)
戦争という重いテーマを扱うため、どんなにドラマにふさわしいと制作側が判断したネタでも、情報提供者が放送を許諾しない場合も多いという終戦記念ドラマ。今後、直接の戦争経験者が減っていく中では、彼らの手記などを元に、彼らの没後、家族の了承を得て作られていくドラマが多いだろうとこの関係者は指摘する。
戦争を知らない世代という言葉が流行してすでに30年以上が経つ。今の子どもたちは戦争を知らない世代の孫たちだ。時と共に風化していくのが過去の記憶だが、決して犯してはならない過ちを二度と犯さないためにも、テレビには今後も良質な終戦記念ドラマを放送してもらいたい。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
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