今月18日にグランドオープンを控える『ニコファーレ』の完成披露会見が行われた。ニコファーレとは、ニコニコ動画の新たな試みとして誕生したライブ会場のこと。文字通り、六本木ヴェルファーレ跡地に建設された同施設は、観客を入れたライブ形式での生放送を中心に発表会や展示会などさまざまなイベントをネット中継するために作られた次世代ライブハウスだ。360度全壁面と天井までLEDモニターを設置した会場は、リアルとバーチャルの垣根を無くし、まったく新しい演出方法を予感させる作りとなっている。
「20代の70%以上がニコニコ動画のIDを持っている」と話すのは当日会見に臨んだドワンゴ取締役の夏野剛。彼はさらに「現在、生放送は音楽、お笑い、アニメ、政治報道など月600本以上を抱え、平日の夜などのピーク時には、ユーザー個人の生放送も5000人を記録している」と語り、「個人のネット中継が確実に根付いている証拠」とニコ動およびニコファーレの存在意義を熱弁した。
ニワンゴの発表によると、昨年から14回行われたニコ生の有料ネットライブは、すでにリアルでの動員数が1万人を超え、ネット上でチケットを購入した観客は5万人を数えている。夏野は、当日の会見でもこの数字を取り上げ、「ネットライブ専用のスペースが必要だと感じた」と話す。おおむね1000円から2000円程度を支払ってネットライブを視聴するというのが高いのか安いのかはさておき、それだけの値段を払う視聴が確実にいるというのは間違いない。
ニコ動の最大の特徴といえば画面上に視聴者が直接コメントできるという点。これによってユーザーたちは感想を共有し感動を分かち合い独特の文化を作り上げてきた。もちろん今回完成したニコファーレから配信される動画にもこの機能はついている。しかもそれは会場を飛び交うように表示されグレードアップしたといっていいだろう。
さらに夏野は、このニコファーレの目玉として、AR(Augmented Reality)という最先端の映像技術をデモンストレーション。現実の世界にデジタルの映像を重ねる拡張現実で、ドラゴンのキャラクターと戦うという演出をして見せた。夏野本人も言うようにまさにそこにはスターウォーズの世界が再現されていた。
もちろんこれらの演出はメイン画面での表示に限る。会場や別アングルからの画面では、ただ夏野がステージで腕を振り回しているだけ。ここまで映像にこだわるならわざわざライブ会場にする必要はないとも言える。最大収容人数が380人程度というニコファーレは、やはりネット配信をメインとするライブ会場であり、そういう意味ではテレビ局のスタジオのようなものだ。夏野はまさにテレビ局を作ったといえる。
一方、完全地デジ化を控えながら、ネットという技術をうまく利用できていない印象のあるテレビ各局は、口を揃えて視聴者との絆を深めるという。しかし、ゴールデンタイムで放送される番組の半数以上が情報バラエティで、そのほとんどが収録ものという現状は、果たして視聴者との絆を深めることができるのだろうか。収録ものの番組ではリアルタイムでの反応が期待できない。視聴者同士の絆は深まっても、番組と視聴者の相互関係は難しいだろう。その点、ライブを身上とするニコ生はユーザーからのコメントにその場で反応できる。ユーザーと作り手側に生まれた連帯感はテレビ局の目指す絆と呼んでも差し支えないだろう。
およそ8万9000人が視聴し、6万3000件以上のコメントが寄せられたニコファーレ完成披露の会見。無数に飛び交うコメントの中には、「テレビ潰しw」や「完全にテレビはオワコン」といったものが散見した。テレビとネット動画を単純に比較することは難しいが、ニコ生のようなネット動画はデジタル技術革新が進むにつれ、ARのように、より魅力的なものを配信することができるが、テレビにそのような革新的な技術の変化があったとは言いがたい。デジタル技術の進歩はとてつもなく早い。その技術を集約して作られたのが今回のニコファーレということになる。そしてそんな新たなステージの開拓は、ユーザーのみならずそこでの活躍を見込めるアーティストにも喜ばしい。
現在のテレビ業界がすでに定員オーバーだというのはよく言われている。そんなテレビで活躍できなくなったアーティストやタレントたちにとって見れば、ネットなどによる新コンテンツは喉から手が出るほど待ち望むものだろう。さらに、従来のライブでは、たとえ最大収容人数が5万人クラスのドームを満員にしても売り上げの上限は決まっていたが、ネットでの配信となれば天井知らず。うまくすれば最小限の費用で最大の効果を生むというわけだ。ユーザーも参加できて出演する側にも大きなメリットがあるネットライブ。今年の夏は、ニコファーレから目が離せない。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
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全国ライブの締めくくり!