【連載】第6回 レズビアンの若干憂鬱な日常

混同されがちな”百合”と”レズビアン”の違い

marimite0623.jpg※画像:『マリア様がみてる 1stシーズン DVD-BOX』/ジェネオン エンタテインメントより

 以前、いわゆる”オタク”の女の子にカミングアウトをしたことがある。その子は職場の後輩で、友人として仲良くなっていくにつれ、自分のセクシュアリティを隠し続けることが心苦しくなったからだった。

 気持ち悪がられたらどうしよう、と冷や汗をかきながら、

「私の恋人は女性なの。今まで彼氏だと言っていたけれど、実は彼女だったんだ」

 そう言うと、後輩からは予想外の反応が返ってきた。

「凄い! 百合カップルだ。初めて見た、かっこいい!」

 目を輝かせてそう言った彼女に、私はどう反応していいか分からず、とりあえず「ありがとう」と言った。そして後輩は翌日「よかったらこれ」と言って、百合モノの漫画を貸してくれた。

 いや、私は嬉しかったのだ。後輩が私のセクシュアリティを受け入れてくれ、その親愛の証として同性愛モノの漫画を貸してくれた。そのこと自体は、ちょっと感動を覚えるくらい嬉しかった。ただ、”百合カップル”という言葉に対しては、違和感をぬぐうことができなかった。

「”百合”は創作物ジャンルのひとつで、定義するのは難しいけど、一般的には”女性同士の恋愛を扱った性描写の少ないもの”だと思う。そしてレズビアンはセクシュアリティ、つまり性的指向のことだから、別物なんだけど……。どうして百合、って言うの?」

 そう尋ねると、後輩は驚いた様子であった。

「百合もレズビアンも一緒のものだと思ってた。百合の方がかわいくてソフトなイメージがあるから、百合、って言ってた。百合漫画を読むから、そっちの方が身近な感じがしたし……」

 つまり”百合”も”レズビアン”も同じものだけれど、前者は初心者向けで後者は上級者向け(この表現もどうかと思うが)、という認識だったようだ。なるほど、たしかに”レズビアン”よりも”百合”の方がソフトで、耳当たりのいい言葉かもしれないが……。

 さて、私は漫画や小説が好きで、百合モノも多少は読む。ここ数年の百合ブームの火付け役と言われている『マリア様がみてる』(集英社)もシリーズを通して読んだし、百合漫画雑誌の「百合姫」(一迅社)にも時おり目を通している。面白い、と思う百合モノ漫画・小説もある。

 しかし、そこに描かれている「女の子同士の恋愛」は、レズビアンの実態とはかけ離れている。そもそも、百合作品で描写される恋愛は「男だろうと女だろうと関係なく、あなただから好き」というものが多い。また「思春期特有のちょっと行きすぎてしまった友情、もしくは憧れ」もよく目にする。このどちらも、レズビアンとは違うものだ。レズビアンは「女性のみが恋愛対象」で、思春期だとか年齢には関係ないものだ。若いころは女性が恋愛対象だったけれど今は男女とも対象、という人もいるが、それは年齢を重ねるにつれてセクシュアリティが変化したに過ぎない(セクシュアリティというものは固定されない場合もままある)。

 もちろん、そういったことを分かっている百合ファンもいるだろう。ただ、「レズビアンです」とカミングアウトした時 に、「お姉さま、とかいうやつだよね」「女子高だったの?」と言われると、ちょっと困ってしまう。ましてや「”レズビアン”って言うと生々しいから”百合”って言えば?」などと言われると、だからそれは違うものなんだって、とつい声を上げたくなってしまう。

 また不思議なことに、「女同士の恋愛はすごくきれいだと思うけど、セックスをしてるところが想像つかない」という人もいた。もちろん、レズビアンカップルも男女のカップルと同じようにセックスをする。大事なコミュニケーションのひとつでもある。キスだけですべて伝わってしまうような百合の世界ならば不必要かもしれないが、”百合”と”レズビアン”は、”少女漫画”と”リアルな男女カップル”くらい違うのだ。

 ただ、百合モノが好きな人のなかには、レズビアンに対して好意的な人が多いことは確かだと思う。くだんの後輩しかり、過去に百合ファンの人に言われたさまざまな言葉を思い出すと、百合とレズビアンを同一視することはあっても、「リアルなレズビアン」に対して嫌悪感を持つ人はいなかった。むしろ、百合とレズビアンが別物だと分かると、「どこが違うの?」「レズビアンの恋愛ってどういうものなの?」などと興味を持ってくれる。そして、こちらがある程度説明すれば、理解してくれることが多かった。

 複数の出版社から百合系の雑誌が出版されており、百合をテーマにしたアニメもたびたび放送されている昨今。百合ファンが増えるにつれ、百合とレズビアンを混同する人も増えるかもしれない。だが、その分レズビアンに対して嫌悪感を持つ人が減っていくのではないだろうか。嫌悪感さえなければ、理解してもらうのも比較的容易になってくる。

 ”百合”と”レズビアン”、違う部分は多いが、「女性同士が恋愛をする」という根っこの部分では同じである。”百合”をきっかけにしてレズビアンに対する興味・関心を持ってくれる人が増えればいいと、私は思っている。

(文=嶋陶子/レズビアンライターの普通な日々

嶋 陶子(しま・とうこ)
某文系大学卒業後、婦人服の販売員として働いていたが、全く向いていないことを悟って辞職。ライターの道に入る。レズビアンであり、女性パートナーと同棲中。

【レズビアンの若干憂鬱な日常バックナンバー】
第1回 レズビアンの同棲にロマンはない!?
第2回 AVから感じる違和感!? レズビアンのセックスは意外とシンプル
第3回 カミングアウトが難しい!! レズビアンは引越しがしたい!
第4回レズビアンにとっての男性とのセックス──レズビアンか、バイセクシャルか?
第5回なぜレズビアンには淫乱というイメージが付きまとうのか?

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