「言っちゃっていいですか!?」海外での高い評価と『さや侍』を自画自賛する松本

dainihonjin0606.jpg※画像は「Cut 2007年 06月号」/ロッキング・オンより

 映画『さや侍』(松竹)の公開が間近に迫り、連日テレビやネットで取材を受ける松本人志。これまでの主演兼監督作とは異なり、監督業に専念した今作については、自ら「(出演してくれた俳優のためにも)宣伝する義務があると思う」と語る通り積極的に取材を受けているようだ。

 そんな松本が各種インタビューでのぞかせるのは今作への揺るぎない自信だ。完成試写では「棺桶まで持っていける作品」と自負し、事あるごとに「ホンマにいいんです」と言い放つ松本。先週末に出演した『あさイチ』(NHK総合)では、「言っちゃっていいですか!?」と連呼しながら、海外での自分の評価はかなり高いと自慢して、「ハリウッドからすごい話がきてる」と漏らすほど。「3日後に正式に発表します」と言ったその言葉の真相は、彼の監督第一作となった『大日本人』(松竹)のハリウッドリメイクだったことが判明した。

 動員数90万人、興行収入12億円を記録した『大日本人』は、2007年のカンヌ国際映画祭監督週間でのワールドプレミア上映をはじめ、トロント、ロッテルダム、釜山など20の海外映画祭で上映され、09年にはニューヨークやロサンゼルスなど、全米26都市の劇場でロングラン上映された実績を持つ。しかし国内での評判といえば、松本人志監督第一作というハードルが高すぎたためか反応はイマイチ。国内評価と海外での評判に大きな格差があることに疑問を持つ松本本人は臆面もなく「海外では評価されてるんです」と語る。

 思えば彼の監督二作目の『しんぼる』(09/松竹)は、理不尽に密室に閉じ込められた者が全能の神へと昇華する物語だった。すでに伝わっていることだが、彼はこの作品を海外での公開を念頭に撮っている。日本人にはあまりなじみのない一神教的な神をテーマとしたのも、きっとこのためだろう。そして彼の思惑通り、釜山国際映画祭に出品された同作は韓国メディアから手放しで賞賛され、ロッテルダム国際映画祭では「創造と空想に溢れていて、僕のつまらない人生を楽しくしてくれた。超オススメ!」と絶賛を受けるほどの注目を浴びた。

 一方、国内での評価といえば『大日本人』同様にイマイチだった『しんぼる』。ネットなどでは「まるでアサハラ」「1つも笑うところがなかった」などという酷評が目立ち、映画監督松本人志への期待値は第一作でかなり低くなったにもかかわらず、世間からの評判は厳しいものとなった。

 国内での評価と海外での評価が著しく異なることはよくあることとも言えるが、そんな現状を松本は『あさイチ』に出演した際「結構悲しいこと」と振り返る。「このままでは逆輸入監督になってしまう」とまで言う彼は、「ダウンタウン松本と映画監督松本の戦い」がネックになっているのだろうと分析し、「ぜひ日本の皆さんには先入観なしに映画を見てもらいたい」と語った。

 しかしそうは言っても、なかなか真っさらな気持ちで松本の新作に触れるというのは難しいのではないだろうか。なんせ彼は20年以上も日本のお笑い界に君臨している帝王である。特に彼の往年のコントや漫才を知っている世代は、彼の新作と聞いて、当時の衝撃をもう一度と期待するのは致し方ないだろう。あの松っちゃんなら、きっとやってくれるはずだと思うのが人情というやつだろう。確かにその期待はあまりにも大きいと言えるが、当時次々とそのハードルを事もなげに飛び越えてきたのは本人だ。満を持して映画監督に挑んだ彼の作品が見事に期待に応えたかといえば疑問というほかない。

 松本は、そのあまりにも大きな期待が作品を純粋に楽しめない弊害になってしまっていることを憂う。だから彼は海外に目を向けたのかもしれない。純粋な映画として作品を評価してもらいたいがために。しかしそれは、トップ芸人という地位を捨てる意味で挑戦だが、彼の洗礼を受けた人々が抱く期待からの逃避とも言える。松本の真意がどこにあるのかは分からないが、彼に対する期待がいかに大きいのかは本人も分かっているはずだ。海外に目を向けることは彼にとって新たなステージへの一歩なのかもしれないが、海外で評価を受けることと国内での評判がいいことは決して別物ではないはずだ。今週末公開される『さや侍』にはぜひ長年の松本ファンをうならせる作品でありながら、海外での評価も高いものであってもらいたい。ファンとしても、それが誇りになるのだから。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)

『大日本人 通常盤』

 
ハリウッドでリメイクされたら「ビッグ・アメリカン」とかになるの?

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