「性癖」という言葉から、一般的には何を連想するだろうか? 巨乳フェチだったり足フェチだったり、はたまたロリコンやババ専などを思い浮かべる人が、圧倒的多数なのではないかと思われる。しかし世の中には、そういった誰もが想像し得る性癖をはるかに超越した、特殊な性癖を持つ人々が存在する。しかも、決して少数ではない。ひょっとしたら、あなたのデスクの隣で働いている同僚も、アンビリーバボーな性癖を持つ1人かもしれないのだ。そういった、数々の特殊性癖を集めたのが、5月24日にイーグルパブリシングから発売された『凄まじき性癖を持つ漢(おとこ)たち』だ。この本には、42名の「変態紳士」たちのたぐいまれなる性癖と、それにまつわるエピソードが収められている。これだけの数の性癖を、いったいどのようにして集めることができたのだろうか。そのあたりを、著者である菊池美佳子さん(34歳・女性)に聞いてみた。
──これだけの数の性癖を、どのようにして知り得たのでしょうか?
菊池「テレフォンセックスです」
──テレフォンセックスというと、ひと昔前に一世を風靡したダイヤルQ2のようなもののこと?
菊池「いえ、違います(笑)。ダイヤルQ2は、『出会い』を目的としたものですよね。そうじゃなく、テレフォンセックスは、実際の出会いではない、電話回線上でのセックスを目的としたものなんです」
──実際に出会えない女性に電話をかけてくる男性など、存在するのでしょうか?
菊池「たくさん居ますよ。逆に、実際に会うことがないと分かっているから、(電話を)かけてきやすいのかも。顔が見えない相手にだからこそ話せることってあると思うんです」
──(顔が見えない相手にだからこそ話せることって)性癖のこととか?
菊池「はい。……確かに最近は、風俗店も多様化してきていますから、男性客のさまざまなニーズに対応できるようなお店もたくさんあるとは思います。でも、対面式の風俗店では話しにくいっていう人も少なくないと思いますよ。『お気に入りの風俗嬢さんに、こんなこと話しちゃって、嫌われないだろうか?』っていう気持ちもあるんじゃないかな」
──今まで話してきた中には、どのような性癖を持った男性が居ましたか?
菊池「『話してきた』っていうよりも、『プレイしてきた』って言った方がいいかも(笑)。今までプレイしてきた中には、それこそここでは語り尽くせないくらい、いろんなタイプの男性が居ましたね。睾丸崇拝主義者の男性とか、女の子が洗顔する姿に性的興奮を得るという男性とか、クラシック音楽を大音響で流さないとイケない(射精に達しない)という男性も居ました」
──一般的に連想される、巨乳フェチや足フェチとは一線を画していますね。
菊池「でも、巨乳が好きだという男性も居ましたよ。ただ、その人の場合はFカップとかGカップとかじゃなく、彼が性的興奮を得るのはZカップのバストだって言っていました」
──Zカップの女性って、実際に存在するんですか?
菊池「私自身は82センチのAカップですが……(笑)。そういった意味では、電話をくださる男性の性癖に合わせて、こちら側も普段の自分とは違う自分になれるという楽しみがありますね。対面式の風俗店では、Aカップの私がZカップの女性を演じることは不可能ですから(笑)」
──逆に、菊池さん自身が楽しめなかったプレイも存在しますか?
菊池「絶叫マニアの男性には少々困惑しましたね。のどが痛くなって、プレイが終わるころには声がかれてしまっているということもありました(笑)」
──その男性とのプレイは拒まなかったんですか?
菊池「私が拒んだら、いったい誰が彼の願望を満たすのだろう、という想いがあったので、絶叫マニアの彼に限らず、拒むということはありませんでしたね。もちろん、”仕事”というプロ意識もありました」
──テレフォンセックスは、プライベートではなく仕事だったということですか?
菊池「はい。22歳から7年間、テレフォンセックス嬢をやっていました。『凄まじき性癖を持つ漢たち』は、その時のエピソードをまとめたものなんです」
──それらのエピソードを本にしようと思ったきっかけは?
菊池「私がかかわってきた男性は、変わった性癖を持つ人の中のほんの一部だと思うんです。でも、世の中にはもっとたくさん、いろんな性癖を持った男性がいて、中には自分自身の性癖に悩んでいる人も居るんじゃないかなって思って……。で、そういった人たちに『特異な性癖を持っている人は、あなただけじゃないのだから、悩まないで』という思いも込めて執筆しました」
──今後の抱負を聞かせてください。
菊池「今回は、男性の性癖を集めた本ですが、いずれは女性の性癖についても書きたいですね。女性も、男性と同様に、性欲もあれば、性癖もあるものですから」
──菊池さんにも性癖があるのですか?
菊池「私は、ニッカポッカ嗜好があるのかもしれません(笑)。スーツフェチだっていう女性は結構多いですよね。私の場合はスーツよりも、ニッカポッカや作業着にフェチズムを感じてしまうようです」
実際に本を読んでみると、特異な性癖をネタにした暴露本などでは決してなく、すべての性癖に対して万能プレーヤーであろうとする著者の、愛であるとか、熱い思いが感じられる1冊であった。笑えるエピソードのみならず、最終話には、思わず目頭が熱くなってしまうような、四十路の童貞奴隷との感動秘話なども書かれてあり、特殊性癖をお持ちの方も、そうでない方も、興味深く手に取れるのではないだろうか。
(取材・文 塚田牧夫)
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