童貞をポジティブに発散する雑誌! 「恋と童貞」第二号発刊記念インタビュー

koitodoutei01.jpg「恋と童貞」第一号 特集「男子諸君! 恋文を書こうではないか。」

 「童貞」と聞いて人は何を思い浮かべるだろうか。その人の性別、年齢、童貞か非童貞か、によっても変わってくるだろう。けれど、鬱屈やフラストレーションのような、どちらかというとネガティブな言葉が浮かんでくるような気がする。しかし同時に、そこに脈々と息づくエネルギーがあることも想像できる。かつてフロイトは、すべての人間活動はリビドー(性衝動)が変形したもの、と言った。つまり、「ヤリたい」気持ちはすごいパワーを持っているんだぜってこと。

 「恋と童貞」という雑誌をご存じだろうか。「乙女心より純情なドウテイ心をむやみに探求する」というテーマで2010年8月に自費出版され、文学フリマや模索舎(新宿)、タコシェ(中野)ほか、多くの書店で販売されているミニコミ誌である。まさに「ドウテイ心」というパワーが作り出した創作物! その気になる内容だが、特集「男子諸君! 恋文を書こうではないか。」では「ドウテイ心」を持った男子数名に初恋の人へのラブレターを書いてもらい、それを読んだヤリ手の現役女子大生に順位をつけてもらったり、「体当たり実験」と題して7年前に借りたエロ本を突然返しに行ったり、「仰げば尊し」を童貞少年の目線というフィルターを通して解明してみたり。共通するのは「ドウテイ心」を「笑い」へ、という変換。そこにネガティブさはなく、さわやかさすら感じられるのが不思議だ。この春、そんな「恋と童貞」第二号が刊行されると聞きつけ、雑誌創刊の経緯、目的、そして気になる二号の内容について、編集長である小野和哉氏に聞いてきました!

──まずは、「恋と童貞」第二号が完成ということで。

小野 はい、見本誌を持ってきました。まだどこにも置いてないんですけど。

koitodoutei02.jpg「恋と童貞」第二号 特集「こんな乙女に恋したい!」

──判型が変わったんですね。(第一号はB5判、第二号はA5判)

小野 そうなんです、本当は一号もA5判にするつもりだったんですけど、行き違いがあったみたいで。

──第一号が去年の8月に発刊されまして、どのくらい売れたんですか?

小野 100冊くらいずつ3回刷ったので、300冊弱ですかね。最初は何冊刷ればいいのか分からなかったので、探り探りで。

──そもそも創刊にはどのような経緯があったんでしょうか?

小野 こういう雑誌を出してることからも分かるように、学生のときに全然モテなくて、今もモテてないんですけど、そういうムラムラとした鬱屈が溜まってたんです。普通の人だったらそこで服装を変えようとか、声を掛けてみようとか、女の子に好かれるための方向に行くと思うんですけど、僕はそういうのがあんまりできなくて。社会学部にいたんですけど、童貞研究とかやってたんですよ。自分の中のモヤモヤをアウトプットしたいっていうことで。「童貞を研究します」って先生に言って、「こいつ、バカだな」って思われていたかもしれないですけど。

──へえー、じゃあ小野さん個人として大学生のときから研究していたテーマだったんですね。

小野 そうです。渋谷知美さんって方が昔、『日本の童貞』っていう研究書みたいなものを出したんですよ。それは「童貞とはなんぞや」っていうことを古くからさかのぼって、文献研究みたいなことをやっていて、結構面白くて、それの真似事みたいなことを卒論でやりました。だから、もしミニコミとかを出すならこんな感じのテーマにしたいなっていう、個人的な思いはそのころからありましたね。大学生のときに出版社でバイトしていたってこともあって、本を作りたいって思いはもともとあったんです。「恋と童貞」のメンバーは基本的にはそこで一緒にバイトしていた人たちです。同じ時期に働いていたので年齢も近いですし。

──ちなみに今、おいくつですか?

小野 今年で26ですね。ほかのメンバーもだいたい同じくらいです。

──「恋と童貞」を読んで思うのが、全然卑屈じゃないんですよ。むしろモテないことを面白がっているというか。

小野 それはほかの人にも言われました。「こいつら、童貞なのに全然卑屈じゃねえじゃねえか!」みたいな。童貞ってネガティブな方向に行きがちだとは思うんですよ。「モテないのは社会のせい」とか、女性批判とか、そういうダークサイドなこじらせ方もあると思うんですけど、自分の中ではもっとポジティブに消化したいっていうか。鬱屈しているよりは健康的に発散した方がいいよね、みたいな。自分も気が楽だし、読む人も面白がってくれるんですよね。攻撃的なこととか、批判的なこととか、男女論とかを入れちゃうと面倒くさいっていうか。

──ほかの人が入り込めないような囲いができちゃいますからね。

小野 そうですね。そういうのがネットで流行ってたんじゃないかなって気がするんです、「非モテ」みたいな。そういった方向に足を突っ込むと難しいことになってくるし、そんなことより笑わせていこうよ、と。

──童貞を笑いに変換する。

小野 そうですね。基本的にはバカなことをしているっていう方向性はあった方がいいと思っています。

──それは見事に企画に反映されていると思います。第一号での恋文企画は最高でした!

小野 あれは内田百けんさんの『恋文』って本を読んだのがきっかけで、あまり書かれなくなったラブレターを今、書いてみたら面白いんじゃないかな、と。ただ書くだけじゃ面白くないので、それを女の人に見てもらったらどうなるのかなって考えたんです。現役女子大生の率直な意見が自分でも面白いなと思いましたね。結論を言うと恋文って書いちゃダメなんじゃないかって思いましたけど。リスクの方がでかい(笑)。

──第二号はどんな内容になってるんですか?

小野 第二号の特集は「こんな乙女に恋したい!」です。要はどんな女の子が好きかっていうことを語り合うみたいな内容でして、まず巻頭は理想の乙女像を発表して、誰の理想が一番かを決める「俺の乙女選手権」。見た目だったり、性格だったり、その設定が細かければ細かいほど面白いんです。次に、佐々木あららさんっていうスケベな短歌を作られている歌人さんがいらっしゃるんですけど、その方が「冷えピタをおでこに貼った女の子ってかわいいよね」って言い出して、そういう女の子を集めてイベントをやられていたので、それを取材させてもらいました。あとはおっぱいとお尻、どっちが好きかというオーソドックスな座談会もやっています。中学生的なノリですよね。童貞にとってちょうどいい温度感のエロ話みたいな。

──メンバーは実際、童貞の人ばっかりなんですか?

小野 童貞じゃない人も居ますよ。僕も厳密に言うと素人童貞なんですよね。そこで縛るといろいろできなくなってくるんですよ。ここが悩むところではあるんですけど。やっぱり童貞だけでやるっていうのは面白いとは思うんです。でも童貞を集めるのって結構難しいんですよ。やっぱり内面の問題でもあるので、その本人しか証明できない。「オレ、童貞です」って言わなきゃ分からないですし。例えば「中出ししてないからオレは童貞だ」って言う人もいるんですよ。なんだよそれっていう。

──基準が……(笑)。

小野 基準がよく分かんないっていうのもありますし、僕はこんな雑誌作ってますけど、やっぱり自分が童貞ですって言いたくないって気持ちが分かるから「あなたは童貞ですか?」って言えないじゃないですか。

──なるほど、意外と探すのがむずかしいっていう。童貞がいたとしてもそれを自分で発信しないですもんね。

小野 普通そうなんですよね。だから「君、童貞じゃないからダメ」っていうのももったいないというか。童貞じゃなくても童貞を探求する心を大切にしている人は居ると思うんです。ヤってもまだこじらせてるみたいな(笑)。彼女が居ても、童貞じゃなくても、面白いネタを持ってる人だったら、僕はそこまでこだわらずに書いてもらいたいなと思っています。ただ読んだ人が「こいつモテてるじゃねえか」ってなったら、それもちょっと違うかなと思うので、そこは難しいところですね。

──そうやってバランスを取りつつ、「恋と童貞」を作る目的って何なんでしょうか?

小野 これを作った理由っていろいろあるんですけど、目立ちたい、変なことして注目されたいっていう気持ちが子どものころからあったんですよ。この雑誌を見て面白そうだと感じてくれた人が寄ってくるような媒体であればいいなと思っています。変なことやってる人がいるから話を聞いてみようかなとか、会いに行ってみようかなとか、原稿出してみようかなとか、それで面白い場ができればいいかな、と。そのための本という感じはありますね。

──では最後に、「恋と童貞」を作ってみて、あらためて、モテたいとは思いますか?

小野 モテたいですね(笑)。この雑誌を作ってモテるとは思ってないですけど(笑)。でも(モテなくてもいいみたいな)悟りを開いたわけでもないので、まだ頑張りたいなと思いますね。どっちかっていったら学生のときの方が悟りを開いてましたね。この雑誌を作ってからは、もうちょっとオープンになりましたけど。

──客観視できるようになったんですかね。

小野 そうですね(笑)。だから童貞で悩んでる人は自分を含め多いと思うんですけど、モテる努力をするか、それができない人たちは「恋と童貞」のようにポジティブに変換していく方向でもいいんじゃないかって思いますね。一人で悩みを抱え込むのが一番よくないので。

──どちらかにアウトプットしていくことが。

小野 まあ、モテる努力の方が正解ですけどね(笑)。
(取材・文=ユハラヨシフミ)

■「恋と童貞」編集長ブログ(http://ameblo.jp/koi-dou/
雑誌「恋と童貞」公式Twitter @koi_dou

「恋と童貞」第一号、第二号は以下の店頭もしくは通販サイトで購入できます。
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