「週刊漫画ゴラク」を発行する日本文芸社が、東北関東大震災の被害状況を鑑み、同誌で連載中の極道マンガ『白竜~LEGEND~』(原作・天王寺大/劇画・渡辺みちお) の「原子力マフィア編」を中断すると発表した。冷徹なヤクザでありながら子どもにも慕われる優しさを持つ”白竜”こと白川竜也の活躍を描いた同作は、ヤクザ同士の利権争いや抗争といった定番ネタだけでなく、テーマパーク建設に絡んだ癒着・不正、医療界の闇など社会派のテーマも扱ってきた。今回、あまりにも現実問題とリンクしてしまったため、中断という事態になったようだ。 大地震発生当日の11日に発売された3月24日号では、海辺で記者が白竜たちを前に、『東都電力』という電力会社と原発の闇について語っている。
描かれたのが原発事故発生前だったにも関わらず、「原発の内部じゃな…マスコミに発表されない事故が頻繁に起こっているんだッ!!」「それらをすべて…金と権力によって覆い隠しているのが、東都電力の体質だッ!!」「原発の配管技術は化学プラントと比べると15年遅れている」「原発は多重構造になった下請けシステムで成り立ってるんだ!!」「しかも、その工事現場はずさん極まりない!」「原発はいわば配管で出来ている発電システムなんだ。この中の主要配管が吹っ飛べば、チェルノブイリ級の原発事故が起こる!!」など衝撃的なセリフが次々と飛び出している。
下請けへの過度なピンハネに対して、極道たちが「ひでえ…ヤクザでもそこまではしねぇぞ!」と憤る姿はシュールでもあるが、あくまで脚色したフィクションであるものの、驚くほど現実の原発問題とリンクしていると思える内容である。さらに驚くことに「原子力マフィア編」の以前には、相撲界における野球賭博の横行を描き、ヤクザが介入した相撲の八百長にテーマが移っていった最中に、現実に相撲の八百長問題が発覚したこともあった。原作者の天王寺大は、人気マンガ『ミナミの帝王』の原作を手掛けていることでも知られるが、恐ろしいほどの予測ぶりだ。
中断というのは仕方のない判断だと思われるが、ネット上ではこのような声も上がっている。
・続きがものすごく気になる。読みたい!!
・ここまで合ってるのを見ると、かなり取材したんだろうなあ
・専門家の話より分かりやすい
・大げさに描いてあるだろうけど本質は突いてる気がする
状況が状況とはいえ、このままお蔵入りになってしまうのは残念な気がするが……。
「あくまで中断と発表していることから考えても、ある程度の時間が過ぎれば再び掲載される可能性はあるでしょう。雑誌掲載が難しい場合でも、フリーの編集者が仲介することで、そういった作品が他社から特別編的な単行本として発売されるというケースは過去にありました。これだけ力の入った内容ですし、完全にお蔵入りということはないでしょう」(出版関係者)
この件だけでなく、地震被害の状況を鑑みた企業によるゲームソフトの発売延期・中止、イベントの自粛、テレビCMの自粛などが相次いでいる。流通や安全面に支障があるならば仕方ないが、単に「自粛ムード」に安易に流されている面も否めないだろう。
大変な状況に置かれている被災者や家族を不快にすることは絶対に避けなければいけないが、無関係な人間からの「不謹慎狩り」とも言える根拠のない批判を恐れるあまり、過敏になってしまえば経済に与える悪影響も大きくなる。日本全体が未曾有の苦境に立たされている今だからこそ、日本経済を担う企業にも毅然とした態度が必要なのではないだろうか。
(文=ローリングクレイドル/Yellow Tear Drops)
原作の取材力の高さはハンパない!