凶悪犯罪が多発し、警察だけでは対応しきれなくなった都市・東京――。強盗犯があふれ、弱い者が強い者に陵辱され、略奪が日常化した事態を憂慮した都府は、ついに最終兵器を発動させることを決定する。その最終兵器とは、善良な市民から無作為に選ばれた、100人の”市民ポリス”だった!!
……こういう出だしで書くと、まるで本格的ポリスアクションみたいだが、今回紹介する『市民ポリス69』は、そんなカッコいい映画ではない。なんせ主役は、今や冴えない中年男を演じたら日本一の酒井敏也だからだ!!
酒井演じる宅配便ドライバーの芳一は、何の取り柄もないダメおやじ。妻には目の前で浮気されても何にも言えず、コギャルの娘からは小馬鹿にされ、街で犯罪現場に遭遇しても、そそくさとその場を退散してしまう小心者だ。
そんな彼のもとに、悲しいかな「貴殿を市民ポリスに任命する」という通達が届いてしまう。もちろん任命されたところで活躍するような芳一ではない。生来の小心ぶりにあわせ、市民ポリスの武器は麻酔銃とプライバシー保護の覆面だけだから、貧弱もいいところ。おかげで殉職者は続出し、世間では反対運動さえ巻き起こってしまう。
それでもひたすら事なかれ主義をつらぬき、犯罪現場に遭遇しても華麗にスルーする芳一。そして何とか無事に任命期間の30日を過ごそうとするが、取引先のコンビニでバイトしていた美少女・桃ちゃんと出会ったことで、その意識は大きく変わる。そしてある事件(犯罪ではなく、単純な近所のトラブル)で初めて銃を撃ち、何となくいい気分になってきた芳一は、徐々に市民ポリスとしての任務を全うするようになっていく。
桃の清楚な雰囲気や、屈託の無い笑顔に心打たれた芳一は、彼女のために何とかしてやりたい、そのためには「先立つモノ」が必要だと考えるようになる。だが好事魔多しで、ある事件が元で知り合った同僚の佐々木から、市民ポリスの地位を利用した悪事に誘われる。ちょうど桃ちゃんが家庭の事情で大金を必要としてると知ったこともあり、その誘いに乗ってしまうのだ!!
かくして、ポリスでありながら、資産家の家に乗りこみ、その資産を根こそぎ強奪しようとする芳一たち。だが、そこには予想もしなかった罠が彼らを待ち受けていた。さらには彼らを影で操り、桃とも繋がりのある謎の組織もその存在を露にし、芳一に最大の危機が迫る!!
……と、ワケありげに書いては見たものの、そこは主演が酒井なので、その小市民っぷりに爆笑するのが観賞のポイントである。キャラクター的には、あの名作『タクシードライバー』(76)でロバート・デ・ニーロ演じたトラヴィスや、先日このコラムでもお伝えした『冷たい熱帯魚』で吹越満が演じた熱帯夜の店主に近いポジションだが、市井の者が狂気に囚われていく彼らと違い、骨の髄まで小心者なキャラクターゆえ、大した活躍もなく、あまりの緊張でビビってすぐにトイレに駆け込んでしまう情けなさ。
また、周りの人間もそれに輪をかけてダメなヤツばかり。桃ちゃんが勤めるコンビニ店長(痴漢で逮捕歴アリ)は、強盗に襲われた腹いせに、芳一の預かってる荷物を全部ぶち壊すわ、芳一の妻(斎藤陽子)は、男子中学生相手に中年女の色香をプンプン匂わせ、夫の前でイチャイチャする色ボケ女だし、市民ポリスの長官・細井も、権力と名誉欲に溺れるダメ人間。唯一、悪役として画面を引き締める立場な秘密結社SHK(市民ポリスに反対する会)の会長(津田寛治)も、ラストでとんでもない人間性を発露する有りさま。そんなダメ人間のカオスにあって、ひときわダメのオーラを放つ酒井の存在感はすごいといえる。
まぁ、ダメ人間をフィーチャーしても嬉しい人はそんなに多くないだろうけど、代わりにヒロインとして清楚な雰囲気を振りまいてるのが、あの「ももいろクローバー」のメンバー、早見あかり。
その屈託のない笑顔とオヤジ殺しな可愛さで、作品内を流れる一服の清涼剤として観客を心和ませる……が、そんな彼女も、実はとんでもない秘密が隠されている。その”裏の顔”が露見される瞬間と、クライマックスでの意外な活躍ぶりこそ、本作一番の見どころかもしれない。公開後の4月にはももクロを脱退することが発表された彼女だが、本作を見るかぎり、脱退後の活動も期待できそうだ。
ももクロといえば、その他のメンバー(百田夏菜子、高城れに、有安杏奈、玉井詩織、佐々木彩夏)も本作に登場。オッサンとダメ人間だらけの本作に華を添えてるが、彼女たちの役はコギャル強盗団!! まるで『時計じかけのオレンジ』のごとく凶器を振り回し、コンビニやら現金輸送車やらを襲撃して周囲を血の海にする様は、ももクロファンやアイドル好き的にはどうなのだろう? いくら「今いちばん戦闘的なアイドル集団」とはいえ、そこまで攻撃的でどうするのか?
そのほか、原紗央莉がモロ乳むき出しのレイプシーン(オチあり)に挑戦したり、あの”スター”こと錦野旦が意外なところで意外なキャラクターを演じてたり、あるいは歴代の市民ポリスに扮するのが「もうちょっと選びようがあるだろ」と思わす素敵キャラクターの宝庫だったりと、いちいちツボを突いてくる。でもやはり極みは、酒井の輝きぶり(頭頂部込み)ってことになるだろう。彼の主演映画ということ自体、希少ですごいことなのだから。
◆『市民ポリス69』http://www.shimin-police.com/
監督:本田隆一
出演:酒井敏也、早見あかり、原紗央莉、津田寛治、斎藤陽子、錦野旦、清水章吾
製作年:2011年
上映時間:102分
配給:トランスフォーマー
ガンバレダメおやじ!
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