自分の精液にアレルギー反応 ヌクのがツライ恐怖の病

arerugi0128.jpg※画像はイメージ画像『現代免疫物語』著:岸本 忠三、中嶋 彰

 射精。それは言わずもがな、男性が生殖器から精液を放出することである。セックスやオナニーによってオーガズムに達したとき、射精とともに得られる快感や幸福感は麻薬にも例えられるほどだ。しかし、射精によって得られた快感の後に、避けられない苦痛が襲いかかってくるとしたら……。近年、考えただけでチンコが縮み上がりそうな病気の報告例が増えている。

 今年1月の「The Journal of Sexual Medicine」に掲載されたマルセル・ワルディンガー博士のレポートによって、射精の際、自分の精液に対してアレルギー反応を起こしてしまうという症例が確認された。

 射精後に発熱や鼻水、目の痛みや疲労感などインフルエンザに類似した症状が現れるという病を、「オルガスム後疾病症候群(POIS)」という。POISの症例が初めて報告されたのは2002年だが、これまで詳しい研究は進められていなかった。医師の中でも知名度の低い病気で、心身症の一種だと考えられていた。しかし、ワルディンガー博士の調査によって、同じ射精後の苦痛であっても、それが必ずしも心因性のものではないということが明らかにされたのである。

 博士の研究チームは、POISと診断された33人のオランダ人男性に対して、被験者自身の精液を希釈したアレルギーテストを行った。すると、被験者のうち29名(88%)に、アレルギーの陽性反応が出たという。

 陽性反応の出たPOIS患者でも、精巣に溜まっている精子にはなんのアレルギー反応も示さない。だが、精巣から精液が発射されると、場合によってはほんの数分で症状が現れるという。

 射精時の精液にのみ反応するというメカニズムは解明されていないが、精液に対してアレルギー反応が起こるということ自体は、特別に珍しい話ではない。そもそもアレルギーとは、免疫反応が過剰になってしまう状態のことをいう。免疫反応は、ウイルスなど自身の体とは異質なタンパク質を排除するための働きだ。タンパク質を主成分とする精液が、アレルギーの原因物質(アレルゲン)となってしまうケースは稀にあるのだ。

 精液がアレルゲンになってしまう「精液過敏症」は、POISと比較して報告されている症例が多い。女性の場合でも膣や口など、精液に触れた場所が赤く腫れたり、痛みやかゆみが現れるほか、風邪やインフルエンザのような症状が全身に現れることもある。コンドームを使用することでアレルギーを回避することは可能だが、子どもを授かりたい夫婦にとっては重大な問題だ。重度のアレルギー症状が出る場合は、人工授精を視野に入れなければならないだろう。

 なお、ワルディンガー博士のレポートには、POISの治療方法も提示されている。花粉など一般的なアレルギーに対する治療法である「アレルゲン免疫療法(減感作療法)」を、精液で試したのだ。アレルゲン免疫療法は、アレルギーの元となる物質を最初は薄めて、徐々に濃度を高めて投与し、体質を慣らすという治療法だ。実験では3年間の投与を行い、症状は大幅に改善されたという。女性の精液アレルギーも、この方法で改善できるかもしれない。

 ところで、POISや精液アレルギーによく似た病気は、03年の「Obstetrics and Gynecology」誌でも報告されている。湾岸戦争の復員兵たちに「Burning Semen Syndrome(精液焼灼症候群)」という奇妙な病気が広がっているというのだ。射精したペニスの先端が腫れ上がり、焼け付くような痛みを起こすという恐ろしい症状だ。精液に触れた女性にも同様の症状が現れるといい、最悪の場合は意識を失うケースも報告されている。精液焼灼症候群は、本人と相手となる女性双方に影響を与えるため、コンドームによる予防が通用しない。死線をくぐり抜けてようやく帰国し、妻や恋人とセックスをしようという時にこの病気が発覚してしまうとは……。

 湾岸戦争の復員兵がかかる謎の病気は「湾岸戦争症候群」と総称されている。湾岸戦争から帰還した兵士約70万人のうち8万人に、記憶障害や脱毛症などさまざまな症状が発症しているのだ。また、復員兵にガンや白血病が多発しているという報告もある。劣化ウラン弾から発せられる放射線や、大気汚染、極限状態によるストレス、対生物兵器用の予防接種など諸説挙げられているが、原因は不明なままだ。

 アレルギーは有害物質やもろもろの化学物質、そしてストレスが蓄積することによって、発症してしまう現代病の一種だ。湾岸戦争と現代生活の違いは、原因が一気に溜まるか、徐々に溜まるかの違いに過ぎない。我々の精液がなんの前触れもなく、煮えたぎるマグマのようなアレルギー物質になってもおかしくはないのだ。
(文=花子・F・不明)

 

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辛いけど根気よく治療しましょう。

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