愛称カナブンこと金沢文子は僕にとって特別なAV女優と言っていいと思います。
まず、僕が最も多く出演作の脚本を書いた女優さん、それが金沢文子です。
そして、よりによってそんな女優のAVを今日まで一作も見たことがない。何故なら、彼女は業界用語でいうところの「パブNG」。すなわち雑誌で作品を紹介できない。よって僕たちAVレビューライターにはカナブンAVが回ってこない。「知らない人」で終わってしまう。
なので、今回のこの原稿仕事がなければ永遠にカナブン作品を見ることなく死んでいったかもしれません。
今回の仕事のおかげで、僕は去年の暮れ「カナブン活動」を始めよう、と思いたったのです。アマゾンの通販でカナブンAVの中古を買い漁ったのです。そして、昨年12月26日。僕は初めて動くカナブン、喋るカナブン、喘ぐカナブンに触れたのです。
すごい。華があるなんてもんじゃない。
衝撃が走った。
戦慄すら走った。
天才と言ってもいいやこれは。
1997年。Kinki Kidsが『硝子の少年』でデビューするこの年の5月、同い年のAV監督・吉野文鳥(http://twitter.com/#!/buncho_yoshino)から電話があった。
「今度、金沢文子という女の子のデビュー2本目のAVを撮ることになった。シナリオをお願い」
当時の吉野文鳥は主に宇宙企画作品を撮っていた。聞けばカナブンは17歳の頃から宇宙企画系列の英知出版のグラビア雑誌で大人気だった女の子で、このたびAVデビューするト。1本目は南の島でロケしたやつ。2本目が僕が撮る今回のドラマ物だト。
シナリオを書いた。『青春のいじわる』(1997年9月発売)がそれだ。
その年の暮れだったか翌年だったかは憶えていないけれど、彼女と会った。それは僕にとって最初で最後の「生カナブン」だった。宇宙企画の社屋での監督面接の席だった。監督は安田健弘。その作品、タイトル、ウィキペディアやら中古AV店サイトやらを必死で捜索した結果、『ロマンスの花』(1998年4月発売)がそれに該当すると突き止めた。決め手は剣道着のカナブンのスチール写真だ。「京急の金沢文庫の駅前に学校帰りのカナブンが降り立つ。駅の看板と本人が同フレームに!」
僕はまずそれを決めた。口の両端を指で広げて学級文庫を「がっきゅううんこ」と喋らせる羞恥プレイが学生時代に流行っていたことを思い出した。金沢文子ちゃんは「かなざわうんこ」といじめられるのです。内容に関して憶えているのはそのへんぐらい。
このたびのカナブン活動で判明したのは、確実に脚本を書いた作品は6本だった。曖昧なのがあと2本ある。
監督面接で会ったカナブンはそれはそれは可愛らしくて、ちょっとやんちゃで、靴を脱いでソファで猫のように丸くなっちゃったりもして。
<これがオレの『青春のいじわる』の主演女優だったんだ。売れるわけだ。アイドル性、タレント性、そして適度なブスっぽさ。AV女優として失敗する要素ゼロだ!>
と高揚して『ロマンスの花』を書いた。
美少女AVメーカーの草分け、宇宙企画専属の「宇宙少女」カナブン。ついさっき、吉野文鳥に電話で教えてもらったが金沢文子は人気、契約本数などなど、いろんな数字が歴代の宇宙少女の中でも小沢まどかと並ぶトップだったんだってね。
「宇宙少女のホームページの掲示板。カナブンの熱心なファンはオジサンが多かったの。<初恋の人に似てる。だから裸の仕事をやっているカナブンがとても心配で>みたいな」 そうだ。初恋の女の子だ。『青春のいじわる』も『ロマンスの花』も、好きな女の子だからこそいじめてしまう、というシーンを書いていたではないか。同級生でちょっとおませで、僕よりも背が高くて、その気があるのかないのか積極的に手をつないできてドキッとさせる、ミルクの匂いのする女の子。金沢文子は、初恋少女キャラだったのだ。
何本も台本は書けど作品は見られず、13年経ってやっとこんなことに気がついた。
宇宙企画作品を17本残し、金沢文子は1999年の『女尻』からアリスジャパン作品に頻繁に出演するようになる。
今週ここで紹介する4時間作品は、『女尻』『セルフポートレート♯2』(僕の脚本のはず。監督は長谷川九仁広)『発情リングスター』の3作品から濡れ場を中心にピックアップ。セックスシーンが7つも入っています。売りの<新基準モザイク>が、カナブンの秘部を初回リリース当時よりも明瞭に伝えてくれるわけです。
宇宙少女を卒業したちょっと大人になったカナブン。恋人モードで晒す素顔のセックスがものすごくエロくていい。プロレスごっこから3Pファックになるシーンの三枚目ぶりがおそろしく可愛い。自分の肛門を初めてモニターで見て当惑する素顔は宇宙少女時代と変わらぬ初々しさあり。すべて1999年のカナブンだ。
金沢文子はこのあと、この時代の多くの人気女優がそうであるように「レンタル」から「セル」に移る。皆さんエロティック方面のあれこれを「解禁」しハゲシクなってゆく。
2004年、再び吉野文鳥からのオファーで、シリーズ物『最高のオナニーのために 21世紀オナニー 金沢文子』(ムーディーズ)の脚本を書いた。女の子がカメラ目線で淫語とともに煽ってくれるシリーズ。僕は、「初恋」の女の子に「ち○ぽ汁くっさい」などという尾籠なダイアローグを喋らせてしまった。やっぱり、好きなコだからいじめたくなるんだね。
昨年12月26日。僕は初めて金沢文子をAVで見た。アマゾンで中古DVD5作品を買った。自分が手がけた作品は1本しか入手できなかった。
それが『青春のいじわる』。カナブン映像との初逢瀬だ。見た。見終わった。この13年前の少女を目にして、僕の歴代のAV女優ベストテンが大きく変動した。歴代のオールタイムAVベストテンも大きく変動した。
『青春のいじわる』の中古DVD。価格は12円。なめとんのか。僕は、チロルチョコよりも安価で初恋を取り戻すことができたのです。
(文=沢木毅彦)
◆アリスJAPAN『AV黄金期・復刻レビュー』詳細はこちら。
30代後半の人にとってカナブンはスペシャルな存在!
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