小沢なつきといえばアイドル歌手からAVへの転身という側面があまりにも印象的だが、彼女に限らずAVは創成期から、芸能界のアイドルの起用を目指してきた側面がある。
成人向けビデオテープ商品に初めて生撮り(ビデオカメラによる撮影)という方法が導入されたのは1981年5月発売の『ビニ本の女・秘奥覗き』『OLワレメ白書・熟した秘園』(日本ビデオ映像)と言われているが、それから遡ること約8カ月、ポルノ映画の世界ではアイドルとポルノを結びつける衝撃的な出来事が起こっていた。
「カナダからの手紙」を平尾昌晃とのデュエットで大ヒットさせたアイドル歌手、畑中葉子が日活ロマンポルノに出演、その第1作『愛の白昼夢』(監督・小原宏裕)が9月6日に公開されたのだ。間髪いれず同年12月には正月映画として畑中葉子の主演第2作『後ろから前から』(監督・小原宏裕)が続く。同2作はスタートから10年目のロマンポルノの興収記録を塗り替え、しばらくの間もっとも客の入った成人作品として君臨し、アイドル歌手がポルノに転身するインパクトは大きさを示したのだ。
その後日活は芸能界のタレントを出演させる企画に目覚め、関根恵子や山東ルシア、大信田礼子、天地真理などの大物女優や元アイドルを続々ロマンポルノに出演させてポルノ映画を復興させるとともに、売れなくなったアイドルがポルノ映画やヌード写真集でもう一稼ぎするという風潮を定着させた。
同じ時代、市場の確立をめざしていたビデオ勢力も絡みのないセクシービデオで数多くのアイドルタレントを主演させた。
たとえば83年に発売されているヌードビデオでは、クラリオンガールの沢田和美『幻の女 ファントムレディ』(監督・野坂昭如)、服部まこ『マギーへの伝言』(監督・高橋伴明)、今陽子『ラハイナストリート』、秋本圭子『I’ts the feeling』、横山エミー『I never forget you』などがあり、これらはAV第1号を作った日本ビデオ映像から発売されている。内容はセックス・シーンの長さやリアリティを重視した宇宙企画やアテナ映像などのハード性には及ばないソフトなレベルだが、アイドル出演作品がAVと同じカタログに並んでいた事実は、創成期のビデオ業界がいかにアイドルのポルノ出演を重要な企画としてとらえていたかを示す証拠だろう。
こうした芸能アイドルの人気を超えるべく、AVメーカーは独自のヌードモデル発掘に躍起になる。83年にはAV界のジャンル・アイドルとして”オナニーの女王”といわれた八神康子や本番女優として名を馳せた愛染恭子、裏本の女王・田口ゆかりなどがいたが、84年には宇宙企画から本番美少女として大ヒットを飛ばす『ミス本番 裕美子18歳』の田所裕美子や『私を女優にしてください』の竹下ゆかりが登場し、芸能界のアイドルを凌駕するジャンルを超えたAV界オリジナルのアイドル人気の磁場を作ってゆくのだ。ことに麻生澪、早川愛美、早見瞳、秋元ともみなどを揃えた宇宙企画の女優陣のレベルは高く、この時代、AVはアイドルの概念から”芸能界所属”でなければ成立しないという要素を排除することに成功した。
それによってAVに芸能界的背景が排除される傾向が強くなり、早川愛美や秋元ともみ、かわいさとみのようにレコードデビューによってAVから芸能界へ進出する逆コースのアイドルが誕生してゆくことになる。
再び畑中葉子のような芸能界経由のAV転身者が話題になるのは88年、葉山レイコが『処女宮』(芳友舎)を発売した時だった。”芸能界からポルノへ”のイメージの高級感がいまだ生きていたことを示すように葉山レイコのAVは売れ、宇宙企画の小野由美やダイヤモンド映像の桜樹ルイなど、”それほど売れてはいなかったが、いちおう芸能界にいたことのあるアイドル”のAV出演という流れを作りだし、さらにその流れは00年代中盤以降の”芸能人AV”の定着化に大きな影響を及ぼした。
このように芸能界とAVはそれぞれの業界に所属するアイドルを時に交換しながら発展してきたが、小沢なつきはそうした潮流の中でもっとも象徴的なポジションにいたAV女優と言えるだろう。
小沢なつきがアイドル歌手としてデビューしたのは87年、シングル「追いかけて夏」(CBSソニー)によってだ。奇しくも芸能界活動歴のあるAV女優として話題となった小野由美もレコードデビューは87年である。
80年代のアイドルブームは松田聖子のデビュー(80年)によって始まるが、87年にはブーム末期を盛り上げたおニャン子クラブも解散し、アイドル歌謡は全体にマンネリ感が漂っていた。直後には森高千里のようなコンセプチュアルなアイドル歌手や、CCガールズなどのセクシーグループが注目されるようになり、90年代に入るとバンドブーム、Jポップブームが勢力を強めるので、そうした意味で小沢なつきは美少女アイドルブームの最末期にデビューしたと言える。
彼女が他のアイドルと一線を画す才能を認められていたのは、ブーム衰退期にも7枚ものシングルレコードを出せたことや、『花のあすか組』(88年 フジテレビ系)『魔法少女ちゅかなぱいぱい』(89年 テレビ朝日系)という2本のメジャー製作の連続テレビドラマに主演していることが示している。そもそも小沢なつきは、現在でも続々と登場し続けているありきたりな芸能人AV女優とはベースが決定的に違うのだ。
ただし小沢なつきは『魔法少女~』でスケジュールに穴をあけ主演を途中降板するという失態を冒しており、番組中断と同時に彼女は芸能界を追放される辛酸を舐めることになる。基本的にこの事件がなければ小沢なつきはAVに出演することもなく、今も菊池桃子や森高千里のような、美少女の面影を残す熟女タレントとしてCMやドラマで活躍したかもしれない。彼女はそれだけのルックスの持ち主だった。
一時芸能界を干された小沢なつきは90年代にヌードグラビアで復帰、おりからのヘアヌード写真集ブームやVシネマブームに乗って、マイナーシーンではあったが数多くの媒体に露出し活躍した。90年代後半には人気に陰りが出て沈黙期に入る。消息不明の期間には一時、東京・中野のキャバクラで働いているのを目撃したなど噂が飛び交ったが事実かどうかは確認できない。
ところが04年、突如小沢なつきのAV女優デビューがアナウンスされる。すでに28歳になっており、カテゴリーとしては”熟女”なのだが、AV転身は彼女のアイドル時代を知る人間にとっては衝撃的事件だった。
同じ2004年、小沢なつきとほぼ同時に”お菓子系アイドル”(「クリーム」や「ホイップ」「ワッフル」など女子高生モデルを起用したセクシーグラフ雑誌のレギュラーモデル)と呼ばれた萩原舞も同じアリスJAPANからAVデビューしている。後の芸能人AV人気の原点はこの年にあると言えそうだ(ちなみに初めてAVで”芸能人”というフレーズあるいは肩書きを使ったのは06年AVデビューの範田紗々と言われている)。
筆者は彼女のAVデビュー作『決心 小沢なつき!?』をAV専門誌のレビューで見ている。サンプルDVDにはメモが添付されており、当時の事務所の制約事項でアイドル時代の実績とAV女優の彼女を一致させてはいけない、とあった。タイトルの名前の後ろに「!?」マークがついているのは、その制約の影響ではないかと考えられる。
当時の自身によるレビューを抜粋すると「ついに見てしまった本年度最大の話題作」「昔とったナントヤラで青木達也によるインタビューにはハキハキと答え、『ハイ!』なんてアイドルっぽい元気な返事も聞ける」「(男優が)バイブを見せて反応を探るも、表情固く不感症的な発言などあり難攻不落か? と思いきや、最後はバッチリ本番でキメるプロの太賀麻郎」「最後のパートはインタビューの流れから青木達也と本番。麻郎のパートよりもリラックスして絡みに突入し、結構燃えて感じてる雰囲気」などと書いている。(ビデオ・ザ・ワールド04年7月号)
ここで書いている男優・青木達也とのシーンは、おそらく本作『あのピンクファイルで魅せる!小沢なつき2』のチャプター4で使われてる絡みではないかと思われる。当時の自分の不見識を恥じ入るしかないが、現在のモザイクレベルで再見すると小沢なつきは一度も”本番”はしてないようだ。2004年はまだ、当時のビデ倫基準ではヘアもアナルも分厚く覆う巨大モザイクで、本番の真偽は判別が難しかったのだ。騙されたのは彼女の演技力のたまものと前向きにとらえよう。
現在のモザイク基準はヘア、アナルはほぼ解禁状態。本番はしていないが、6つのチャプターに収められた絡み(複数の作品から抜粋されている)は、フェラチオ(ゴム付きだが)を非常に丁寧にしているのが克明に分かるし、男優の執拗な指入れに反応しているのがいやらしい。肉体の線がだいぶ緩んでる印象も受けるが、小沢なつきというかつてのメジャーアイドルの痴態が新たな発見とともに鑑賞できるのは喜ばしいことだ。
今では毎年、何人もの”芸能人”がAVデビューする。セクシータレントの状況に疎い筆者はどこでどのように芸能活動をしてきたのかまったく分からないアイドルも多い。しかし小沢なつきは確実に、芸能界の一線級のアイドルだったことを知っている。80年代初頭、創成期のAVシーンで多くの芸能人、セクシータレントを脱がせてきた日本ビデオ映像の流れを汲むJHV=アリスJAPANが小沢なつきをAV界に誘い込んだもの、振り返ってみるとなにか不思議な縁を感じてしまう。
(文=藤木TDC)
◆アリスJAPAN『AV黄金期・復刻レビュー』詳細はこちら。
アイドルらしからぬ”熟れたカラダ”は衝撃でした!
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