「アイドル戦国時代」でマジ萎えた。
そんな乱暴な言葉で2010年のアイドル・シーンを総括したくなるほど、今年は「アイドル戦国時代」という言葉が濫用された。もちろんその文脈で語られるアイドルたちには何の罪もない。しかし、いかにもAKB48の大ブレイクを受けて広告代理店が作ったようなバズワードである「アイドル戦国時代」に、業界の大人たちが急に群がるのも、まぁ萎える光景だった。
そもそも「アイドル戦国時代」以前は、かつての「アイドル冬の時代」のような状況だっただろうか? 別にそんなことはない。脈々と存在してきた地下アイドル、あるいはライヴアイドルのシーンを無視する形で、メディアが煽る図式には心底うんざりした。
そんな状況下の4月、東京の地下アイドルシーンを支え続けてきたイベント「アイドルステーション」が、主催事務所の社長の逮捕で消滅するという事件はあまりにも手痛かった。ひとつのシーンが突然消えてしまったのだ。
さらに12月になって、これまで数々のアイドルのイベントが開催されてきた秋葉原の石丸ソフト本店・アイドル館が閉店するという衝撃的なニュースが入ってきた。いくら「アイドル戦国時代」と言われても、これが現実なのだ。AKB48劇場やディアステージのように秋葉原に「場」を持つアイドルはいいが、どこにも「場」を持たないアイドルの活動はこれまで通りにはいかなくなるかもしれない。アイドルという文化が、大資本を抱えた事務所に所属する少数のプレイヤー中心の流れになったら、それはそれでつまらない話だ。
そんなやさぐれた気持ちをひとまずおいて、本連載の2010年のベスト10を挙げたい。
1位:Saori@destiny「WORLD WILD 2010」(D-topia Entertainment)
「アイドルよ、海を渡れ 変容するSaori@destiny『WORLD WILD 2010』」で紹介。これ以降のSaori@destinyのライヴは異常な熱気を保っており、収録曲の中でも「I can’t」はその熱気が頂点を迎える楽曲。異様な魔力を孕む、2010年を代表するダンス・エレクトロだ。
2位:Chu!☆Lips「ワケあって結成日から1ヶ月遅れで6周年突入! ワンマンライブだよ全員集合!!」(South to North Records)
「『ヲタがアイドルの活動を支えられるかどうかは、現場を見ればすぐに分かる』Chu!☆Lipsとチュッパーの幸福な関係」で紹介。ヲタの肖像権など無視したことが功を奏した、2010年の地下アイドル・シーンのエネルギーの貴重な記録。
3位:東京女子流「ヒマワリと星屑」(avex trax)
東京女子流については「いよいよエイベックスが本気を出す!! 東京女子流という産業」で紹介。2010年のソウル・アイドル歌謡の頂点的作品。
4位:SKE48「1!2!3!4! ヨロシク!」(日本クラウン)
「これぞ鉄板! 完成度抜群、SKE48のアイドル×ソウル『1!2!3!4! ヨロシク!』」で紹介。これも見事なソウル・アイドル歌謡。
5位:ももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」(ユニバーサルJ)
ももいろクローバーについては「号泣アイドル降臨! ももいろクローバー『未来へススメ!』」で紹介。「MUSIC JAPAN」の女性アイドル特集ですべてを持って行った楽曲であり、作詞・作曲・編曲を手掛けた前山田健一の実力を知らしめた作品。
6位:Tomato n’ Pine「キャプテンは君だ!」(Tomato n’ Pine Tokyo)
「非武装中立地帯的なアイドル・Tomato n’Pine」で紹介。カップリングの「POP SONG 2 U」と「ためいき、オカリナ、ほら猫が笑う。」がともに素晴らしく、後者のビデオ・クリップ(http://www.youtube.com/watch?v=LzhXXAylF5o)も3人の素の魅力がにじみ出ている点が秀逸だ。
7位:キャンパスナイターズ「エロくないのにエロく聴こえる歌 ~しこたまがんばれ!~」(ポニーキャニオン)
「エロくないのにエロく聴こえる!! 聴けば聴くほど頭が悪くなる名曲誕生」で紹介。元旦のテレビ放送からリリースまで3カ月待ったほど、突出した破壊力の楽曲。メンバーの藤岡みなみさんからは「くだらなくてすばらしいもの♪|藤岡みなみオフィシャルブログ『パンダGo!Fight!Win!』」でレスをいただいた。
8位:Cutie Pai「お人形と魔法のレストラン」(Cutie Pai Records)
次回で紹介予定。
9位:KARA「アンブレラ」(ユニバーサル・シグマ)
「右傾化する日本社会でK-POPはどう受容されていくか KARA『ガールズトーク』」で紹介した「ガールズトーク」に収録、シングル「ミスター」のカップリングでもあった。ひとつの洗練を極めたK-POP。
10位:ぱすぽ☆「Pretty Lie」(ジョリー・ロジャー)
「“救済”を求めるアイドルヲタ……ぱすぽ☆周辺のアツすぎる上昇気流」で紹介した「TAKE☆OFF」に収録されているほか、シングルとしてもリリース。甲乙つけがたいシングル曲の中でも、ロック的な爽快さが群を抜いている楽曲。
次点として、Negicco「Sweet Soul Neggy」(GPL Records)、私立恵比寿中学校「えびぞりダイアモンド!!」(スターダスト音楽出版)、Perfume「FAKE IT」(徳間ジャパンコミュニケーションズ/『ねぇ』カップリング)、AKB48「マジスカロックンロール」(キングレコード/『桜の栞』カップリング)を挙げたい。
2011年のアイドル・シーンでは、アミューズのさくら学院と、エイベックスのSUPER☆GIRLSの動向に注目したい。また、メンバーの個々のリリースが増えてきたディアステージや、枚数限定盤で高チャートを記録した小桃音まいの今後の戦略も気になるところだ。メンバーのストライキが話題を呼んだ桜組2期生も異色の存在として見逃せない。
K-POPの人気がいつまで続くかという声もあるが、それを言うなら「アイドル戦国時代」もいつまで続くのだろうか? それが終わるのは、投下した資本が回収できたアイドルと、回収できなかったアイドルに結果が明確にわかれたときだろう。
AKB48の覇権については、メンバーを様々な事務所に所属させることで、芸能界内で相互補助的に機能させている点に注目したい。ひとつの企業やグループで利益を得る旨みは大きいが、人気が落ちはじめたときには誰も助けてくれない。その点、利益を様々な事務所と分け合うAKB48にはいわば「保険」がかけられているのだ。
さて、個人的には2010年のアイドル・シーンの最大の事件は、3月31日のamUの活動休止だった。amUについては「アイドルが”アイドル”から脱皮するとき amU『prism』」で紹介したが、その希望の火が消えてしまったのだ。amUのacoはすでにspoon+として活動を始めていて、音楽とダンスと映像を組み合わせたパフォーマンスは非常に魅力的だが、そのステージを見れば彼女がすでに「アイドル」の枠外へと飛び出したことへ気付くだろう。もう立派なアーティストなのだ。
また、2011年の個人的な願望は、ソロの歌手としてライヴ活動を再開したソニンのライヴなのだが、舞台女優として大成してしまった彼女がアイドルかというと、もうそういう存在でもないだろう。
そう考えると、本気で推せるアイドルはどこにいるのだろう?
2011年も、引き続き日本のアイドル・シーンを彷徨っていきたい。私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて――。
◆バックナンバー
【第1回】号泣アイドル降臨! ももいろクローバー「未来へススメ!」
【第2回】アイドルが”アイドル”から脱皮するとき amU『prism』
【第3回】タイ×ニッポン 文化衝突的逆輸入アイドル・Neko Jump
【第4回】黒木メイサ、歌手としての実力は? 女優の余芸を超える”ヤル気満々”新譜の出来
【第5回】全員かわいい!! 過剰なほど甘酸っぱく、幸福な輝きを放つ「9nine」のイマ
【第6回】AKB48「桜の栞」は、秋元康による”20世紀再開”のお知らせだった!?
【第7回】エロくないのにエロく聴こえる!! 聴けば聴くほど頭が悪くなる名曲誕生
【第8回】アイドルよ、海を渡れ 変容するSaori@destiny『WORLD WILD 2010』
【第9回】いよいよエイベックスが本気を出す!! 東京女子流という産業
【第10回】テクノポップが死んでも……Aira Mitsuki is not Dead!!
【第11回】アイドル戦争と一線を画す17歳美少女 そこにユートピアがあった
【第12回】おニャン子クラブの正当な後継者はAKB48ではない――「アイドル戦国時代」の行く末
【番外編】「ヲタがアイドルの活動を支えられるかどうかは、現場を見ればすぐに分かる」Chu!☆Lipsとチュッパーの幸福な関係
【第13回】非武装中立地帯的なアイドル・Tomato n’Pine
【第14回】99年生まれも!! 国産アイドル・bump.yのもたらす脳内麻薬と安心感
【第15回】「○○商法」で結構!! 限定リリース戦法でじりじりチャートを上る小桃音まい
【第16回】やっぱりAKB48は20世紀の延長だった!? 「80年代風アイドル」渡り廊下走り隊
【第17回】AKB48新曲バカ売れの背景――僕らはいつまでアイドルに「陶酔」していられるか
【第18回】これぞ鉄板! 完成度抜群、SKE48のアイドル×ソウル「1!2!3!4! ヨロシク!」
【第19回】右傾化する日本社会でK-POPはどう受容されていくか KARA『ガールズトーク』
【第20回】“救済”を求めるアイドルヲタ……ぱすぽ☆周辺のアツすぎる上昇気流