ウィキペディアってすごい。とうの昔に引退した「日向まこ」も出てきました。1969年12月27日生まれだって。40歳だって。えーっ、日向まこは今40歳なの!? 想像がつかん。
エロ本出版社の老舗と言っていい東京三世社=フロム出版(この秋に消滅。お世話になりました)で僕は大学生時代に『映画の城』という雑誌のピンク映画紹介記事をバイト的に書かせてもらい、ライター生活を始めた。ちょうど30年前のこと。もちろんAVはない。家庭用のビデオデッキもない。『映画の城』でピンク映画の女優インタビューも始めた。え、ボク童貞ですよ、いいの? って言いながら。19歳の僕。
以降、毎月休むことなく(そう、30年間一度も。我ながら驚きですな)必ず誰か1人、アダルト関係者から一般の有名人までいろんな媒体でいろんな人をインタビューし続けています。初インタビュー仕事はピンク映画女優の「麻生うさぎ」という人でした。日向まこも、東京三世社=フロム出版のAV情報誌『オレンジ通信』と『ビデパル』でインタビューをさせていただいた。
シナリオライター業もやっている関係で日向まこ作品の脚本も書いた。ウィキペディアのおかげで分かりました。アテナ映像の、タイトルは『あなたとしたい セーラー服の日向まこ』(1989年)。計算すると21年前。当時僕が28歳で、日向まこが20歳か。うん、そんなもんですなぁ。
当時のアテナ映像の社員助監督兼制作だった石岡正人(最近、AV界の巨匠・代々木忠監督-アテナ映像の社長-の素顔に迫ったドキュメンタリー映画を完成させた映画監督です)から、「次は日向まこというコで1本お願いします」と『あなたとしたい』の脚本を依頼されたのだ。燃えたのだ。旬な美少女アイドル。絶対に日向まこの代表作を書いてやる、と。ま、これ以上『あなたとしたい セーラー服の日向まこ』に触れると自画自賛しか出てこないのでここまでにしておきます。
やんちゃな子猫のような女の子。と、紋切り型で言えてしまう、まれに見るわかりやすい小悪魔キャラ。デビュー作は、当時うさん臭いおっさん度100 点だった村西とおる監督による『駅弁大将物語 いじり魔子』だった。いじり魔子なんて芸名イヤだもん。と、本人がすぐに日向まこ名義に変えた。
しかし、くだんの、いじり魔子。すっごい美少女で、おっさんたちのロリコン心をくすぐる小悪魔度100 パーセントの女の子。たちまち心を奪われたぜ。日向まこにインタビューしようぜ、と編集者も僕も即決。
話を聞くと(これは当時は誌面で触れないで欲しいと言われていたので書かなかったことだが)、「高校時代から1人暮らしを始めた1人で生きている女の子」という意外な苦労人な素顔があった。好きだよ。本当に好きになった。
『舌ったらず』は彼女のデビュー直後、1988年の作品。当時何かの雑誌のレビュー仕事で、このタイトルは見た記憶がある。日向まこの可愛らしさを絶賛したのかな? どんな作品? ま、憶えていませんわな。このたび、復刻版で見せていただいた。驚きの作品だった。今、僕たちが(要は僕が)「渇望しているもの」がそこにあった!
冒頭。女子校生の日向まこが恋人とのドライブの帰途。ハンドルを握っている彼氏役は秋吉宏樹。翳りを帯びたナイーブな好青年役をやらせたら当時ナンバーワンの男優だった。これを監督した映像派・倉本和比人(に関しては先週分の藤木TDCによる『フラッシュバック14 鮎川真理』レビューに詳しいです)も秋吉宏樹をよく起用していた。
夜。まこの自宅前。助手席から降り立つ日向まこは、運転席側へ小走りに回り、送ってくれた秋吉こと「キヨシ君」に、
まこ 「ごめんね、いつも」
キヨシ 「いいよ、別に。おやすみ」
まこ 「後で電話するから」
そして2人はキスをする。ハンドルを握ったままの秋吉と、前傾姿勢のまこ。
なんてストレートな純愛描写だ。真っ先に浮かんだのは「これ、このモード、韓国ドラマやん!」。韓国ドラマに僕が惹かれるのは、前述した僕が「渇望しているもの」があるからだ。純愛だ。今、ニッポンのドラマは変化球ばかり。当時のニッポンAVのドラマ物にしてもやはり変化球ばかり。「純愛なんて気恥ずかしくて撮れないよ」そんなクリエイターばかりだ日本は。韓国は違うからね。そのトップが真っ正面から純愛に向かい合うユン・ソクホだからね(テレビの演出家。『冬のソナタ』を始めとするヒットメーカー)。
なので、倉本和比人監督のこの直球の演出に、このたび、初めて心を洗われてしまった。驚きの続きです。家に消えていくまこ。後ろ姿を苦々しくも「善玉」顔で見送る秋吉。その表情のわけは、続く秋吉の回想シーンが教えてくれる。
2人はさっきまでラブホテルにいたのだ。でも、セックスには至らず。フェラチオと手
コキ発射だけで終わったのだ。
まこ 「キヨシ君。やっぱり、帰る。ママがね、こういうとこに来ちゃいけないって言ったの」
秋吉 「ママと僕とどっちが大事?」
まこ 「キヨシ君」
秋吉 「……いつもまこのこと考えてオナニーしている僕を可哀相だと思わない?」
まこ 「まこ、そういうの、分かんない」
秋吉の要望。「では僕がクンリングスをしながらオナニーしてイク、絶対にセックスは
しないから」、で、話がつく。
まこ 「でも、どうして(女性器を)舐めたいの?」
秋吉 「愛してるから」
まこ 「そっか。じゃ、いいよ」
日向まこのうぶ、無垢、清冽の三拍子。秋吉宏樹の誠実さ。倉本和比人監督の迷いなき恋愛描写。こんなに美しいものに触れたのはいつ以来だろうか? ここに尽きる!
ラストの処女喪失シーンは、今で言う名もなき素人系AV女優が「日向まこ」になった瞬間だと言える。また当時はそんな言葉すらなかったが「微乳」アイドルのトップが誕生した瞬間だとも言えた。
で、翌年の『あなたとしたい セーラー服の日向まこ』の完成品を見て、日向まこの小悪魔キャラを完璧に引き出した(演出もそうですが)オレの脚本の成果、その結実に興奮、ヒラメキ、すぐに石岡正人に電話した。
「日向まこで『ストップ!!ひばり君』をやろうよ」
江口寿史のコミックです。男の子が女の子のふりしている学園物。主人公のひばり君は日向まこにぴったりなんだよ。
「可愛いよねェ~。でも(実は)男(って役)でしょ。AVにならない。無理」
「いつまでもそんな保守的なこと言ってたらダメなんだよ!!」
「じゃあそれを代々木監督に直接言って説得して下さいよ。言えます?」
言えるか。あっさり断念しました。若かったね。みんなね。
(文=沢木毅彦)
◆アリスJAPAN『AV黄金期・復刻レビュー』詳細はこちら。
「日向まこ」こそロリ系の元祖
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