大晦日の「第61回 NHK紅白歌合戦」の出場歌手が発表されてみると、アイドル戦国時代枠どころかK-POP枠すら存在しなかった。本連載でも「『アイドル戦国時代』はバズワード」と書いてきたので、新進勢は来年以降の活躍に期待すればいいとしても、K-POPが一組もいないのは私もちょっと驚いた。そういえば、少女時代やKARAがいきなり大ヒットを飛ばす状況に対して、メディアや人の「政治性」が字義通りの意味で露呈するのも面白いと言えば面白かった。アイドルの話なのにイデオロギーが出ちゃうとか大変ですねぇ。
そんなわけで、「第61回 NHK紅白歌合戦」の出演者はアイドル的な観点から特に面白味はなく、トピックはAAAの初出演ぐらいだった。以前、新横浜駅でAAAの横浜アリーナライヴ帰りのファンの大群と鉢合わせたのだが、若者が男女問わずAAAのTシャツを着ており、電車の中でグッズを開けて見ていて、あの辺はいわゆる「ピンチケ(※)」ともトライブが異なるユースカルチャーだと感じた。だから彼らの出演も妥当すぎるぐらい妥当だ、アイドル的に。
ではAKB48は今年は何人が出てきて人海戦術をするのか、SKE48やSDN48、それに研究生は出るのか……というわけでSKE48のシングル「1!2!3!4!ヨロシク!」(日本クラウン)の話題だ。AKB48の名古屋の妹分、ということで認知度自体は高そうだが、「1!2!3!4!ヨロシク!」は10月にYouTubeのSKE48公式チャンネルで公開された瞬間に「ヤバい!」と感じたアイドルソウル歌謡の傑作だ。オリコンのシングル週間ランキングでは初登場2位という好セールスぶりだが、ヲタ以外もちゃんと聴いてる? という警鐘をガンガン鳴らす意味でご紹介する次第だ。
アイドルとソウルというのもひとつの鉄壁の路線だ。「1!2!3!4!ヨロシク!」を聴いてまず思い浮かべたのは、往年のモーニング娘。でのダンス☆マンのアレンジ仕事だった。今年は本連載でも紹介した東京女子流がその路線のシングルを連発しており、特に「ヒマワリと星屑」(avex trax)はライヴでイントロのギター・リフを聴いた瞬間に一気に興奮した傑作だった。そして「1!2!3!4!ヨロシク!」と続くと、こういう路線がもっと増えないかと欲も出てくるというものだ。
ブラス・セクションによるイントロ、「Ready!」という声のオールド・スクールなサンプリング、そして歌へという流れのカタルシス。ミュージシャンのクレジットがないので生音かプログラミングなのか判別し難しいが、リズム・セクションひとつとっても完成度が高い。さらに、サビの前にアイドル然とした語りがいきなり入るギミックも素晴らしい。作曲のツキダタダシ、編曲の前口渉はともにアニソン畑のイメージがあったが、ここでの両者の仕事はSKE48の魅力を鮮烈に引き出すことに成功している。
仙台の常盤木学園高等学校で撮影された、丸山健志監督によるビデオ・クリップもインパクトがある。とにかく人が多い。多すぎる。500人とかわけがわからない。しかもSKE48と制服の女の子たちのなかに、なぜかサンバのダンサーもいる。そういう曲じゃないだろ、パーカッションの音がちょっとそれっぽいだけで! というツッコミを入れたくなる、良い意味での馬鹿馬鹿しさには、EE JUMPの「おっととっと夏だぜ!」(トイズファクトリー)での竹石渉の仕事を連想した。さらに、そこにSKE48のダイナミックなダンス・シーンまで挿入される。楽曲とは別軸の解釈が行われることで「1!2!3!4!ヨロシク!」はユーモア、そしてなにやら感動まで見る者に与える作品に仕上がっている。
楽曲とは別軸の解釈というと、カップリングのキネクト(松井珠理奈、松井玲奈)による「TWO ROSES」のビデオ・クリップにも衝撃を受けた。こんなにレディー・ガガだなんて……! 妙に彼女からの影響を隠すよりもはるかにすがすがしい。しかも松井珠理奈と松井玲奈が青と赤に塗りあげられて踊っている。インパクト強すぎるだろ……。こちらも丸山健志監督のいい仕事だ。
言うまでもなく「第61回 NHK紅白歌合戦」には出演しないアイドルのほうが多いわけで、その中から「1!2!3!4!ヨロシク!」のような突出した楽曲も飛び出してくる。2010年も末だが、引き続きそうした作品をしつこく紹介していきたい。ええ、別にノンポリなんで。
(※)ピンチケ……AKB48の公演では中高生向けのチケットがピンク色をしているため、学生ファンはこう呼ばれる。
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